慕情

〜色褪せぬ想い〜

BY.櫻

 

 

春先のプレハブ屋根の屋上は暖かく・・・

瀬戸口とののみは屋上で日向ぼっこをしていた。

青い空、白い雲、暖かい穏やかな空気に包まれ今日は絶好の昼寝日和だった。

「たかちゃん。やねのうえは、あたたかいねぇ〜」

満面の笑顔で瀬戸口を見上げるののみ。

ののみを笑顔で見つめ、にこやかに微笑み返す瀬戸口。

「そうだな〜・・・よし!ののみ。膝枕してやろう!おいで」

瀬戸口は膝を叩いてののみを呼び寄せた

「わ〜い!たかちゃんだいすき!ねこさんもおいで〜」

ののみは離れた場所で座っていたブータに声を掛けた

「ぶにゃ〜ん」

声に気がついたブータがトコトコ歩いて来ると、

瀬戸口の膝に顎を乗せ身体を寄せる感じにのそっと寄りそう。

2人と・・・1匹か・・・

「ははっ・・昔を思い出すなぁ〜」

瀬戸口がブータとののみを見つめながら目を細め微笑む。

「むかし?」

ののみがキョトンと瀬戸口を見る

「もう・・・遥か・・・遥か遠い昔の事さ・・・」

瀬戸口の紫苑の瞳が一瞬だけ切なげに揺れた。

「さびしいの?たかちゃん・・・」

心配そうに瀬戸口に問い掛けるののみ。

「ん?」

そうか・・・ののみは・・・タレント(ラボで作られたシンパシー能力がある人間)

・・・俺の胸の内も筒抜け・・か...

「いいや。ののみがいるから寂しくないよ」

瀬戸口はののみの頭を慈しむ様に撫でた。

そう・・・この子の笑顔さえ守れたら・・・それでいい・・・

シオネのクローン体の・・・この幼子(おさなご)を・・・

「エヘヘ・・・たかちゃんのだいじなひとがはやくみつかるといいねぇ〜」

そう呟くとそのまま、うつらうつら・・・と眠りだすののみ。

「ああ。そうだな・・・」

瀬戸口は優しい瞳で遠くの花岡山を見つめた。

シオネの遺体が眠る聖なる山を・・・。

『シオネ・・・』

はるか昔に思いを馳せながら・・・

瀬戸口も次第に微睡んで紫の瞳を緩やかに閉じていった・・・。

 

 

 

1時間後

「ZZZZZzzzz・・・・」

瀬戸口は本格的に眠ってしまったが、逆にののみは浅い眠りだった様で、瀬戸口のイビキで起きてしまった。

「ほえ?たかちゃんもねちゃったねぇ〜でも〜ぽかぽかあったかくて・・きもちいいの〜」

ののみが瀬戸口の膝に頭を乗せて青空を眺めていたら、何かに気がついたのか眠っていた筈のブータが目を覚まし突然鳴いた

「にゃ〜ん」

プレハブの屋上に壬生屋が上がって来た。

「あら?ののみさんとブータ・・瀬戸口君も・・・。こんな所にいらしたんですね」

ののみとブータの姿を見て微笑んだ壬生屋の笑顔も瀬戸口の姿を見てぎこちなくなる。

「えへへ〜たかちゃんのひざまくらで、ねこさんもいっしょにおひるねしてたの〜」

ののみの笑顔につられて微笑む壬生屋。

「それは良かったですね。」

「うんっ!」

と、突然何かを思いついたのか、ののみは「あっ!」と小さく声を上げると

「そうだ!みおちゃんもいっしょにおひるねしよう?」

「え・・・でっ・・・でも・・・」

ののみの誘いに戸惑う壬生屋

「ねこさんが、みおちゃんとかわってくれるって!」

「ぶにゃ〜ん」

ブータは一声なくと壬生屋に場所を譲るかの如く瀬戸口の膝から離れる

慌てる壬生屋。

「せ・・・瀬戸口君の膝で、ですか!?わたくしがそんなを事したら瀬戸口君に怒られてしまいます・・・」

しゅんとなる落ち込む壬生屋を励ますようにののみは

「みおちゃん!じぶんのきもちにしょうじきにならないとめーっなのよ?」

「ののみさん・・・」

「すき。はいいことなの。ののみ、みおちゃんもたかちゃんもだいすき!」

ののみさんはわたくしの気持ちはお見通しなんですね・・・

わたくしが・・・瀬戸口君を・・・お慕いしている事も・・・

壬生屋は儚げに微笑むと

「では・・・ちょっとだけ・・・」

『1分・・・いいえ、1秒でもいい・・・少しだけ・・・瀬戸口君。貴方のお側にいさせて下さい・・・』

壬生屋は心の中で瀬戸口が目を覚まさない様に祈りながら

瀬戸口の膝にそっ・・・と頭を乗せた。

意外に筋肉がついた逞しい瀬戸口の膝に頭を乗せ頬を朱に染める壬生屋。

本当に少しの間だけのつもりだった・・・なのに・・・

瀬戸口の膝に頭を乗せると無性に懐かしい思いと幸せな思いが壬生屋の心を湧水の様に満たして行き・・・

「すーーーーー。」

いつの間にか本当に壬生屋は眠ってしまった。

「あれ?みおちゃん?ねむっちゃったの?・・・えへへ・・・みおちゃんしあわせそうなの〜」

ののみは壬生屋の安らかな寝顔を見てそっと起き上がる

「にゃ?」

立ち上がるののみを見上げるブータ。

ののみはぶーたをヨイショと抱き抱えると

「みおちゃんとたかちゃんをふたりっきりにしてあげるのよ。えへへvv」

微笑みながらブータを連れて下の階へ降りて行った。

 

 

あれからどれ位時間が経過したのだろうか・・・

「ん・・・・?」

日が陰り風も肌寒くなり、ようやく意識が覚醒する瀬戸口

己の膝の上にある人肌のぬくもりが何故か無性に懐かしく感じられ瀬戸口は幸せな気分で目覚めた。

「そうか・・・いつの間にか寝ちまったのか・・・ののみ?」

ののみとブータがいるものと思い視線を巡ら声を掛ける

しかし・・・瀬戸口が身を起こしかけたその膝には、ののみもブータも居らず。

代わりに己の膝に見覚えのある長い黒髪の胴衣姿の少女の姿が!

 

「な!?・・・」

壬生屋が視界に入った瞬間に瀬戸口の思考回路が停止した。

『・・・壬生屋?どうしてコイツが俺の膝で寝ている???』

声を荒げ様としたものの何故か声を飲み込んでしまう瀬戸口。

起こそうと壬生屋の肩に触れようとした手も固まってその先迄伸ばす事が出来ない。

暫く悩んだ揚げ句瀬戸口は、弱々しい困った声で壬生屋に声を掛けた

 

「おい・・壬生屋・・・起きろ・・・起きてくれ・・・」

「ん・・・」

かすかにみじろぐ壬生屋。

「起きてくれよ・・・頼むから・・・」

哀願する様に瀬戸口は壬生屋に語り掛ける。

「うん・・・・っ・・・」

壬生屋は熟睡している様で起きる気配すらない。

「参ったな・・・」

瀬戸口は頭上を仰いで一人愚痴た

プレハブ屋根の屋上で瀬戸口は壬生屋を膝に乗せたまま途方に暮れた

既にもう周りは夜の帳が降りようとしている

 

昼間屋上で、ののみとブータの2人と1匹で昼寝をしてた。それは覚えている・・・が。

俺が目を覚ましたらののみもブータの姿もないのに・・・

何故俺の膝に壬生屋が寝ているんだ!?全く持って理解不能だ

「勘弁してくれ・・・」

瀬戸口は苦虫をかみつぶしたように思いっ切り顔をしかめた。

色男が台無しである。

 

 

ふと、瀬戸口が視線を膝の壬生屋に移すと、サラサラと風に棚引く長い髪が視界に入る。

俺の膝の上に乗ってる壬生屋の頭

こいつの髪だけはいつも綺麗だな・・・と、内心思っていた・・・

瀬戸口は躊躇しながら恐る恐る壬生屋の髪に手を伸ばす

指で触れるとサラサラと指の間を通り抜けてゆく絹糸の様な髪

この感じ・・・まるで想像していたあの人の髪みたいだ・・・

シオネ・・・シオネ=アラダ・・・

 

勿論シオネの髪には触れた亊などはなかった。

彼女は俺にとっては絶対唯一の神の様な存在で・・・

あちらから触れる亊はあっても俺からあの人に触れる亊など・・

そんな恐れ多い亊など・・・出来る筈もなく。

それで・・・あの人のサラサラと風に流れる長い黒髪を見ては

きっとこんな感触なのだろうと・・・思い描いていた

壬生屋の後ろ姿が無意識下でシオネと重なる・・・

 

「・・・起きろよ・・・」

瀬戸口は囁く様に壬生屋に語りかける。

本来ならば相手は仲が悪い相手なのだし、無理矢理起こせばいいものの瀬戸口は何故かそれが出来なかった

壬生屋は嫌いな女だ。

いつも顔を合わせれば喧嘩ばかりで

仲も悪い・・それなのに・・・

何故か

惹き付けられる・・・

視線を離す亊が出来ない・・・

彼女の一挙一動に振り回されている自分がいる

嫌いな筈・・・なのに・・・

 

瀬戸口は己の胸に問い掛けた

シオネに・・似てるからか?

 

強い意志を秘めた蒼い瞳

ぬばたまの髪

シオネを・・思い出すから・・・

瀬戸口は唇を噛みしめた。

 

 

 

 

「壬生屋・・・」

独特の低音の声で甘く囁いた

瀬戸口が壬生屋の名を呼ぶと

「う・・う〜ん・・・」

壬生屋はコロンと寝返りを打って瀬戸口の方を向いてしまった!

 

「!!!!!」

壬生屋が瀬戸口の方に顔を向けた瞬間

心臓を鷲掴みにされた様な錯覚に陥る瀬戸口

普段見たこともない様な穏やかな壬生屋の寝顔に暫し見惚れ息を飲む。

壬生屋の

流れる黒髪

白磁の肌

長い睫毛

柔らかそうな頬

艶やかな唇が

 

瀬戸口を衝動的に駆り立てる

恐る恐る指を伸ばし

頬にそっと触れてみる・・・

柔らかい・・

吸い付く様なめらかな肌触りが瀬戸口の理性を侵食していく

瀬戸口は震える指先で壬生屋の唇にそっと触れた

その艶やかな唇に触れた瞬間!

ぞくりと脊椎に走る感覚に瀬戸口は慌てて首を降り

 

突然怒鳴りつける様に壬生屋の名前を大声で呼ぶ瀬戸口

「み・・・壬生屋!!!起きろ!!オイ!起きろッ!このっ・・・馬鹿ッ!!!」

瀬戸口の怒鳴り声で慌てて目を覚ます壬生屋

「え???は・・はいっ!・・・あら???ここは・・・??」

まだ寝ぼけているのか事態を把握出来ない様で、キョロキョロ辺りを見渡している。

瀬戸口は壬生屋を睨みつけ

「・・・勝手に俺の膝で寝るんじゃない」

「す・・すみません・・・あ・・・わたくし・・・どうして・・・」

「知るか。」

「申し訳ありません・・・」

しゅんと落ち込む壬生屋を一瞥した瀬戸口は

「・・この事は・・・忘れろ・・・」

瀬戸口は吐き捨てる様にそう言い放ち立ち上がる

「・・・えっ・・・?」

呆けた壬生屋をその場に残し逃げ出す様に瀬戸口はその場から走り去った。

 

 

屋上から大分離れ尚絅高の渡り廊下を過ぎ校庭まで走って来た所でいきなり立ち止まる瀬戸口。

まだ・・・壬生屋に触れた指先が震えている・・・拳を握りしめグッと歯を食いしばり途切れがちに言葉を紡ぐ。

「あのままあそこにいたら・・・俺は壬生屋を・・・」

『抱きしめてしまいそうだった・・・』

己の本心に愕然とする瀬戸口。

馬鹿な・・そんな筈はない・・・俺はアイツの亊は嫌っている筈だ・・そんな亊はあり得ない。

なのに・・・

壬生屋の唇に指が触れた瞬間そのまま抱きしめてしまいたいと思った。

この胸に掻き抱いて、貪る様に接吻たいと・・・

「そんな訳ない・・・そんな思いは・・・俺は認めない・・・」

瀬戸口は自分の制服の胸の部分をぎゅっと掴んだ

すると・・・自分の制服から花の匂いが鼻腔を掠める・・・

「花の匂い?・・・違う・・壬生屋・・・の匂いか・・・」

ふと、先ほどの壬生屋のあどけない寝顔を思いだし頬を赤らめる瀬戸口。

 

「どうか・・・している・・・」

瀬戸口は宵の明星を見上げ、己に言い聞かせる様に呟いた

 

シオネ・・・

俺の愛しい女神・・・

貴方以外はいらないんだ・・・

貴方以外を・・・

欲しては・・・ならない・・・

俺は・・・

未来永劫・・・

貴方だけを・・・

愛している・・・

 

瀬戸口は赤い髪の毛をクシャ・・・と掻くと気を取り直して指揮車へ向け歩きだした。

 

end.

 

作品紹介・・・つか言い訳チック

ヘボ作13作目は・・・壬生屋に惹かれているのにシオネへの想いからその自分の気持ちを、認める事が出来ないヘタレ瀬戸口のお話です(笑)ま〜いつものうちの(裏の)瀬戸口ですね。ワンパターンでスイマセン(汗)でも何やかんや言ってもお互いに惹かれ合ってますがね。ヘボ作ですが感想とか頂けるとメチャ嬉しいですのでどぞツッ込んでやって下さいませ。(笑)