貴方が倖せであるように

by.櫻

 

 

この偽りの身体で偽りの誕生日を迎えるのは何度目だろう・・・

俺は本当の瀬戸口隆之ではない。

千年以上人間をやってきたが、元は人ではなく人外の鬼だった・・・

だから今までどんなに親しい人に誕生日を祝って貰っても、心から嬉しいと感じた事はなかった。

 

そう。今日この日迄は・・・

 

 

 

 

 

その日壬生屋はプレハブの屋上で午後の授業開始のチャイムを耳にしながらその場を動けず非常に困っていた。

それは彼女の膝で爆睡している人物が昼休みが終わっても起きる気配がないからであって・・・。

無理に起こせばいいのだけれど、ぐっすり眠ってるのを起こすのもなんだか忍びなくて・・・。

このままでは授業が・・・

 

「嗚呼っ・・・どうしましょう・・・」

 

本日何度目かの溜息をつく壬生屋。

赤い袴の膝の上には赤味がかった髪の青年が気持ち良さそうに眠っている。

それは5121小隊の自称愛の伝道師こと瀬戸口隆之その人であった。

普段は仲の悪い二人が・・・どうしてこういう状態になったかと言うと・・・

 

 

お昼休み

ののみと瀬戸口と壬生屋は屋上でお昼ご飯を食べてまったりしていた。

瀬戸口と壬生屋の二人の仲は悪いのだが、ののみとは二人共互いに仲が良かったのでそれでよく3人一緒に食事になる事が多かった。

 

昼ご飯も食べ終り、ののみはブータを抱っこしようと周りを追いかけている。

お腹も満腹で睡魔が襲ってきた瀬戸口はその光景に微笑みながら大きな欠伸をしつつ眠たそうに遠くを見つめた。

目線の先に花岡山が見える。

懐しい哀しい記憶が甦りそうになるのを意識的に奥へ押しやり

「眠いな・・・」

ぽつり。と、独り言を呟く瀬戸口に

「なら、昼寝でもなさったらどうですか?」

どうせ夜遊びをしていたからであろうと思い、瀬戸口を突放す様に言う壬生屋。

 

「そうだな・・・」

よほど眠いのか、ほけ〜と壬生屋の提案を瀬戸口はすんなり受け入れる。

いつもだったら何かと己に突っかかってくる筈の瀬戸口の薄い反応に壬生屋は、よっぽど眠いのですね・・・と苦笑いしながら、邪魔をしない様に壬生屋はその場を去ろうと立ち上がろうとした・・・

が。

膝に何かが、ぼふん☆と乗っていて立ち上がれない。

ブータ?かしらと思い視線を膝に移すと赤い髪が視界に入り・・・壬生屋は自分の目を疑い固まった。

「え・・・・???」

なんと!壬生屋の膝の上に瀬戸口が頭を乗せている!

事態に気が付き瞬時にまっ赤になった壬生屋が叫んだ

「なっ・・・・何を為さるんですかっ!」

「五月蝿いな壬生屋。昼寝を勧めたのはお前さんだろう?それに今日は俺の誕生日なんだから膝位貸してくれたっていいだろう?」

「そっ・・・それはそうですが・・・誕生日って・・・でもそれとこれとは関係ないのでは・・・」

瀬戸口の提案に疑問を抱く壬生屋に有無を言わさず瀬戸口は完全に「寝」に入った。

「時間になったら起こしてくれ。其れ迄絶対に起こすな」

「は・・・はい。」

なにやら釈然としないまま壬生屋は渋々瀬戸口の枕になる事を了承したのだが・・・壬生屋の心は激しい動悸でどうにかなってしまいそうだった。

実は瀬戸口に密かに惹かれていた壬生屋は、己の膝に瀬戸口がいる事で気が動転していたのである。

それで、顔を赤くして目を白黒させて固まっていたら

いつの間にかお昼休みが終わっていて頼みの綱の、ののみとブータ迄いなくなっていて途方に暮れた。

瀬戸口を無理矢理起こすのは簡単だ。

『でも・・・このままでいたい・・・』

なんて少しでも考えてしまったから。

『嗚呼わたくしはなんて愚かなのでしょう・・』

壬生屋は自分を恥じた。

 

壬生屋は春風に長い髪を棚引かせ瀬戸口を見つめる。

どこから飛んで来たのか桜の花弁が瀬戸口の髪にはらりと落ちる。壬生屋は微笑みながら瀬戸口の赤い髪にそっと触れた・・・

「髪の毛・・・意外に柔らかいんですね。」

いつもだったら見る事が出来ない無防備な瀬戸口の秀麗な寝顔に“とくん”と壬生屋の胸が高鳴る。

 

『わたくしは・・・瀬戸口君が・・・好き。

壬生屋は唇を噛みしめた。

彼に嫌われているのは解っています。

でも・・・例えいくら嫌われても・・・好きな気持ちを押える事は出来ません。』

瀬戸口の額にそっと触れる壬生屋

「貴方が・・・好きです・・・瀬戸口・・・君」

壬生屋は知らず胸の内をそのまま言葉にしていた。

 

気持ち良く眠っていた瀬戸口は壬生屋の告白で目が覚めた。

何故か分からないが壬生屋の膝はまるで懐しいあの人の雰囲気を纏っていて心地よく・・・

目を覚ましたくない・・・と思っていた所に壬生屋の呟きが聞こえたのだ。

『貴方が・・・好きです・・・瀬戸口・・・君』

 

 

とくん。とくん。とくん。

知らず高鳴る胸に瀬戸口は狼狽える。

『俺・・・は・・壬生屋の事は・・・』

初めて会った時から近づいたら魂を掴まれそうな・・・そんな感覚があって

壬生屋には意識して近づかない様にしていた瀬戸口だった・・・

 

 

どの位考え事をしていたのだろうか・・・不意に瀬戸口の頬に雫が零れ落ちた

「!!!!」

『涙???壬生屋?まさか・・・泣いているのか?』

「な・・泣くんじゃ・・・ない!壬生屋っ!」

壬生屋が泣いていると思った瀬戸口は血相を変えて慌てて飛び起きた。

「えっ?・・・泣いてなんかいませんけど?」

キョトン・・・とした顔をして瀬戸口を見つめ返す壬生屋。

「へっ?」

瀬戸口が瞳を見開くと、空は雲一つ無く快晴なのに雨がぽつり…ぽつり…と降っていた。

「キツネの嫁入りですね・・・」

壬生屋が花岡山の方角を見て和やかに微笑む。

「・・・・・」

その壬生屋の笑顔に見惚れ暫し息を呑む瀬戸口。

懐しい誰かを思いだす様な・・・そんな既視感〈デジャ・ブ〉・・・

壬生屋とシオネの姿が重なって一つに見える。

 

シャラン・・・と、鎖の音が聞こえた様な気がした。

 

呆けたままの瀬戸口に壬生屋は含羞みながら微笑み

「あの・・・お誕生日御目出度う御座居ます・・・あなたに千の祝福を・・・そして、これからのあなたがいつまでも倖せでありますように・・・」

 

壬生屋の言葉に衝撃で刻が止まる。

 

 

 

『祇園・・・貴方が倖せでありますように・・・』

 

 

 

壬生屋のその言葉・・・それは俺の生涯唯一愛する女(ひと)が昔俺に言ってくれた言葉で・・・

まるで懐しい彼女の声が胸に響く様で感極まり胸が締めつけられる。

 

瀬戸口の頬につぅ・・・と一筋の涙が零れた。

 

『シ・・オネ・・・なのか?壬生屋が?』

そう考えると今迄欠けていた頭の中のパズルのピースが“ぴったり”はまって・・・

今迄思いだそうとしても思い出せなくなっていたシオネの顔を鮮明に思い出した。

 

長い黒髪、青空を思わせる蒼い瞳、それは・・・本当に壬生屋そのもので。

よくよく考えてみればシオネの魂の輝きと壬生屋の魂の輝きは同じで・・・

どうしてこんなに側にいたのに気が付かなかったのだろうか?もしかして・・・

これは夢なのではないか?

壬生屋が・・・俺が1000年以上もの間探し求めていた姫巫女だなんて・・

手を伸ばせばそこにいるなんて・・・・

そんな・・・

そんな都合のいい話・・・

瀬戸口は目の前の現実をすぐには認められず

つ・・・と手を伸ばし・・・壊れ物にでも触れる様に優しく壬生屋の頬をなぞる。

壬生屋も初めはびくっ…と驚き、たじろいだものの瀬戸口の成すがままにされていた。

「どうして・・・逃げない?」

「そ・・・それは・・・何故だか解らないのですが・・・懐しい気がして・・・」

驚愕に見開かれる瀬戸口の瞳

「!!!」

「おかしい・・・ですよね。わたくし、家族以外の殿方にこんな風に触れられた事などないのに・・・」

「・・・・・」

「貴方に触れられる事が懐しいなんて・・・ふふっ・・可笑しいですね・・・」

泣き出しそうな表情の壬生屋の身体を思わず抱き寄せる。

「あっ・・・いや・・は・・・離して・・・下さい・・・」

「いやだ。」

壬生屋がみじろぎしても瀬戸口の抱擁は緩まる事もなく更に強く抱きしめられてゆく。

 

「わたくし・・・勘違いしてしまいます」

瀬戸口は壬生屋の言葉に一瞬驚いた様に瞳を見開き又瞳を閉じる。

「勘違いしてもいい・・・から・・・ただ・・・暫くこのままでいさせてくれ・・・」

「・・・はい」

 

ようやくシオネの転生体に出会えた嬉しさで涙が溢れて止まらない・・・。

 

1000年・・・

どれだけ待ったと思っているんだ?俺は・・・あんたに会う為だけに・・あんたに・・ただ・・・ひと目会いたくて・・俺は・・・ッ

 

 

「瀬戸口・・・君?」

瀬戸口の声はまるで嗚咽を堪えるかの如く震えていた。

「やっと・・・見つけた・・・俺の・・・女神」

瀬戸口は童の様に泣き続け、壬生屋はただ瀬戸口の頭を優しく撫で続けるだけだった。

 

 

 

 

 

 

暫くして、ようやく落ち着いた瀬戸口が口を開く

「壬生屋・・・」

気のせいだろうか瀬戸口の声は今迄の棘のある物言いと違って、優しさに満ちていた。

瀬戸口の変化に戸惑いを感じながらも返事を返す壬生屋。

「はい?何でしょう?」

瀬戸口は壬生屋をじっ・・・と見つめ少し照れながら壬生屋に告げた

「さっきの・・・もう一度・・・言ってくれないか?」

「え?お祝い・・・ですか?」

「いいや。その前。」

「??その前って?・・・・・」

ハッ!と思い出した様に顔を朱に染める壬生屋

「お・・・起きてたんですか?」

と、激しく動揺する壬生屋を見て、笑いを堪えている瀬戸口

「さぁな」

「知りませんッ!」

瀬戸口をドンと突き飛ばし後ろを向いた壬生屋だったが、瀬戸口に背後から顎にそっと指をかけ己に視線を向けさせられてしまう。

優しい藤色の瞳が壬生屋を見つめ、視線を搦め捕られ壬生屋の唇から吐息が漏れた。

「あ・・・・・・・」

「聞きたいんだ。お前さんの口からちゃんと・・・」

「・・・ズルイ・・・」

「今日は俺の誕生日だし♪これ位の我侭は許して欲しいんだけど?」

暫く考え込んでいた壬生屋は意を決した様に頷いた。

「〜〜〜〜〜分かりました。」

スーハーと深呼吸した壬生屋は耳迄真っ赤にしながら瀬戸口を見つめ・・・そして先刻言った言葉を瀬戸口に伝える。

 

「・・・・・・・・。」

 

消え入りそうな壬生屋の小さな告白に瀬戸口は心底倖せそうに満面の笑みで微笑んだ。

 

end.

 

happy birthday! takayuki setoguchi

作品紹介・・・つか言い訳チック

ヘボ作18作目はSS消してから久しぶりなのですが(笑)瀬戸口の誕生日祝い・・・ではなかった作品を無理やり誕生日絡めました(笑)校正もロクにしていないので誤字脱字変なトコもありかと(滝汗)本当はきちんとした物書きたかったのですが、さっき迄別の原稿やってたので時間なくって(泣)

言い訳臭いけど瀬戸口がいたからGPMが好きになったので、瀬戸口がいなかったらGPMにハマル事はなかったと思います。ここ2年好きな作品出来ても結局は瀬戸口に戻ってしまうんですよね(苦笑)あ!勿論壬生屋あっての瀬戸口の幸せです。どちらかが掛けても不幸でもいけません(笑)やっぱりどう転んでも(途中ダークにまみれようが)所詮私はハッピーエンド主義者なんで(笑)

では。改めて。瀬戸口誕生日おめでとう〜vvv

これからも未央りんとお幸せに〜vvv

 

 

 

 

って書いたのはいいが・・・・今年は瀬戸口誕生日は

花岡山に花見行く計画ぐわぁあああああ!!!