ロミオとジュリエット

(瀬戸口×壬生屋 パラレル純情ラブコメディ?)

by.櫻

 

【1】

 

しん・・・と静まり返った1組の教室内

善行委員長が教壇に立ち小隊の面々を見渡して・・・咳払いをひとつ

「ゴホン。え〜〜〜今度の文化祭の演題は[ロミオとジュリエット]の劇です」

と宣言すると。

『おおーーーーーーーっ!』

途端に教室内に歓声が上がった。

本日は午後から1組の教室にラインオフィサーとテクノオフィサーが集められ文化祭の出し物についての話合いを行っていて、

文化祭の劇のお題が発表され、にわかに騒がしくなる5121小隊の面々。

 

 

「今度の主役は絶対俺な!俺」

滝川が一人で熱く語っていると・・・。

「ばぁ〜っかねぇ。馬鹿ゴーグルがロミオって柄ぁ〜?先輩がピッタシだよ〜vvv

滝川を馬鹿にする新井木。

「先輩がロミオなら、やっぱり僕がジュリエットだよね〜皆んな〜僕が選ばれても恨まないでよ〜」

新井木が両手を組んで瞳をキラキラさせて言った

「バーローお前こそ!ジュリエットなんて、ぜんっ・・ぜん似合わねぇ〜よ!」

滝川が呆れながら言い返す様に言うと

「なによ〜?僕のジュリエットに文句ある訳ぇ〜?」

「やるか?おぅ!」

一触即発のきまずい雰囲気に

「二人共・・黙れ・・・」

来須の一言で静かになる二人

「はぁ〜いv先輩v

「見ろ!お前の所為で先輩に怒られちまったじゃないか〜」

「馬鹿ゴーグルの所為でしょう〜?」

机の下で肘で小突きあう二人。

その後ろで・・・

 

「遠坂さんは・・・ロミオ役似合うと思います」

田辺が頬を赤くしてもじもじしながら遠坂に言うと

「いやぁ・・・僕なんてとても・・・田辺さんこそ・・ジュリエット役似合いますよきっと」

田辺の耳元で遠坂がそっと囁く

「ええっ・・そっ・・そんな!!!」

田辺は幸福状態になった!

ゴーーーーーーーーン

お約束の様に何もない筈の頭上からタライが落ちてきて頭部に直撃!田辺は気絶した。

「たっ・・田辺さん!大丈夫ですかっ!?田辺さん!」

眼鏡にヒビが入り満面の笑みで撃沈の田辺。南無南無。

その隣で・・・

 

「ジュリエットは素子さんが似合うと思うぞ〜〜〜〜!」

「もぅ〜若宮君ったらv

ジュリエット役が似合うと言われて悪い気はしない原整備班長。

その原の背後で岩田が踊りながら若宮に指摘をする

「若宮君!そ〜れはミスキャストですねぇ〜原女史はどちらかと言うと白雪姫の継母役とか、シンデレラを苛める姉役とかの意地悪な役柄の方が〜

似合うとイワッチは思いますがねぇ〜」

穏やかに微笑んでいた原の眉間にピキッとヒビが入り笑顔が凍る。

原がパチッと指を鳴らし

「やっておしまい!」

と言い放つと、整備班の面々(田代・森・中村)に袋叩きにされる岩田。

「先輩になんて事いうだ〜!」

「あ〜何か苛々する!岩田〜てめェマジおろす!」

「主任には逆らえんけんね。岩田許せよ」

「ノォォォオオオオ〜〜〜〜〜〜〜!!!イワッチ正直な意見を〜」

ドカッ!バキッ!ゴキッ!

岩田が袋だたきにあっている側で萌がブータを抱き上げてつぶやいた。

「馬鹿・・・だ・・わ・・」

 

教壇の前の方の席では速水が舞の方を振り向いて

「皆何を言ってるんだろうねぇ?舞が一番ジュリエット役が似合うのに決まっているのに」

と、にこやかに舞に微笑む速水

「あ・・・厚志ッ!わっ・・・私は・・・あーゆうヒラヒラした服は・・似合わぬ!」

顔を真っ赤にして速水の言葉を否定する舞

「そんな舞も可愛いよvvv

徐に舞を抱きしめる速水

「ばっ・・馬鹿者!こ・・こんな公衆の面前で!!くっつくな〜!」

相変わらずの馬鹿ップルぶりに呆れる小隊のメンバーの面々。

 

「速水サンと芝村サン。シアワセ〜なのデスね」

にこやかに微笑むヨーコさん

「はぁ〜お熱いこって・・・ねぇ〜なっちゃ〜んvvvうちがジュリエットの格好したら似合うとおもう?」

加藤は羨ましがりつつ狩谷を眺めそう尋ねると

「知るか!馬鹿」

と顔を赤くしてツレナイ返事を返す狩谷。落ち込む加藤。

 

「ロミオとジュリエット・・・素敵な演題ですvvvどの様な配役になるのでしょうか・・・」

壬生屋が瞳を輝かせて期待に胸を膨らませていたら

後ろから

「ま。お前さんがヒロインてゆーのは天地が引っ繰り返っても絶対ありえないがな」

とボソリと呟く瀬戸口

「瀬戸口君・・・それは・・・わたくしにおっしゃってるのですか?」

後ろをギリリ・・・と振り返り瀬戸口を睨みつける壬生屋。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」

サッと壬生屋から視線を外して口笛を吹く瀬戸口。

「けんかはめーだよ。たかちゃん。みおちゃん。」

間に挟まれたののみはオタオタしている。

「ほっとけ東原。いつものことだ」

横から茜がののみを援護した。

 

善行がパンパンと手を叩いて騒がしくなった教室内を静める。

「配役は本来ならばクジ引きなのですが・・・今回は芳野先生の提案で“特別に”こうなりました」

 

 

ど−ーーーーーーーーん

黒板をスライドするとそこにはすでに決定済の配役が書かれていて・・・

いつもはくじ引きなのに・・・という皆の疑問も

配役を見た全員がざわめき主役の一組の男女に視線が集中する

男の方は「な!?なんじゃそりゃ〜!?」と寝耳に水の呆けた様な顔をしていて

女の方は「な・な・な・・・!!!」と、怒りの為か肩をプルプルさせている。

 

「ロミオには瀬戸口君、ジュリエットには壬生屋さんでいいですね?」

一時騒然となる教室内

ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ・・・

「い・い・で・す・ね?」

怒気の篭った善行委員長の駄目押しの声。ざわついていた教室内が瞬時に静かになる。

「・・・はーーーい・・・」

渋々返事をする小隊のメンバーの面々

 

いつもならこの役は嫌!とかこの役がやりたい!とか文句を言う人間が多数続出して話がまとまらないのだが今回は

異義を唱える事を許さない善行の雰囲気にクラスの誰もが仕方なく賛成の声を上げたのだった・・・が

その中からやおら瀬戸口は立ち上がり

「委員長!俺はその配役には断っっっっ固反対です!」

と一人反対意見を唱えた!

そして、瀬戸口のセリフを聞いて反撃するかの様に壬生屋も立ち上がり善行に抗議する

「わたくしだってこんな不埒な方が相手だなんて絶対に嫌です!」

壬生屋の物言いにカチーンときた瀬戸口は壬生屋を睨みつけ

「それはこっちのセリフだ!」

と言うと、壬生屋も負けじと振り返り瀬戸口を睨み返し

「それはわたくしのセリフですっ!」と言い返す。

火花を散らしてにらみ合う二人。

対峙するその様はまさに龍虎対決といった感じだ。

そう・・・

瀬戸口と壬生屋は5121小隊内で唯一二人だけ“何故か”壊滅的に仲が悪かった。

 

そんな二人のやり取りを見て善行は『ヤレヤレまたか・・』と一人溜息をつき眼鏡を掛け直すと

「芳野先生が日頃のあなた達の関係を見兼ねての配役決定です。異義は認められません。文句があるのなら坂上先生に言って下さい。

・・・まぁ言っても無駄な事だとは思いますが。」

と冷たく言い放つ。

「そんな・・・酷い・・・」

壬生屋はうるると瞳を潤ませ

「横暴だ・・・」

瀬戸口は落胆してつぶやいた。

 

 

 

【2】

 

朝のホームルームが終わった休み時間

瀬戸口は配役に納得がいかないのか浮かない顔をしてムスッとしていた。

その様子を見兼ねた速水は教室に壬生屋がいない事を確認してから瀬戸口に笑いながら話しかける。

「瀬戸口は壬生屋さんと仲悪いもんねぇ?」

速水の言葉にぱぁああっvvvと顔を上げ涙ぐむ瀬戸口

「そーなんだよぉ〜!分かるか?速水!なら俺と役を変わってくれよ!」

と速水に泣きついたが、瀬戸口の提案をさらりと受け流す速水。

「駄目だよ。芳野先生が決めたんでしょ?君たち二人がが少しでも仲良くなる様にって。諦めなよ瀬戸口」

と言って笑いながら瀬戸口の肩をぽんぽんと叩く。

「んな事言ってもなぁ〜大体主役の器じゃねーだろ壬生屋は。美形のおれ様はともかく。壬生屋にジュリエットなんて無理無理絶対に無理!あんな特攻暴力女。」

瀬戸口がそう言うと、突然背後からドン!と何かを叩く音がした。

その音に吃驚して固まり恐る恐る二人が振り返ると

いつの間にか教室に戻ってきた壬生屋に話しを聞かれてしまった様で、壬生屋は顔を怒りで赤く染めて拳をドアにめり込ませていた。

「・・・特攻暴力女で悪かったですね!」

ガラガラガラガラ・・・ピシャンッ!!!

壬生屋はプリプリ怒って教室に入らず踵を返して外に出て行った。

 

「あーあ・・・壬生屋さん怒って行っちゃったよ」

速水はオロオロ慌てたが瀬戸口は苦い顔をして視線を逸らすと

「いいさ。ほっとけあんな女。」

相変わらず瀬戸口は壬生屋に対してだけは容赦がない。

世の全ての女性の味方と豪語する割りにはクラスメイトの一人の少女とは“何故か”いつまでも仲が悪かった。

そんな瀬戸口を見て速水はいつも疑問に思っていた事を改めて問いかけてみる。

「どうして瀬戸口は壬生屋さんにだけあんなに冷たいのかなぁ〜?愛の伝道師なんでしょ?世界中の全ての女性の味方なんじゃないの?」

瀬戸口は人を差別したりするタイプの人間ではない筈なのにやたらと壬生屋を嫌っている。

その壬生屋に対しての瀬戸口の態度が速水には理解できなかった。まるで自分からわざと壬生屋を嫌っている様にしか見えなかったから・・・。

速水の疑問に慌てて返す瀬戸口。

「あ・・あいつとは性格が合わないの!油と水!犬と猿!火と水。まさに天敵だ!前世で敵同士だったのかもな!」

速水は慌てて否定する瀬戸口の態度がなんだかおかしくて

「ふふっ・・・最大の憎悪は最大の愛情から生じるっていうしね〜瀬戸口の場合壬生屋さんに対しては可愛さ余って憎さ百倍ってところかな?」

速水がニコニコして言うと

「・・・・何か言ったか?」

瀬戸口は眉間におもいっきり皺を寄せて仏頂面になった・・・美形が台無しだ。

「ううん。何でもないよ」

しれっととぼける速水。

「あっそ。」

これ以上壬生屋の事でツッ込まれたくない瀬戸口は速水の言った事は追及せず台本に視線を落とした。

「はァ〜〜〜〜相手が壬生屋じゃなかったらなぁ〜〜〜・・・」

ぶすくれたままで大げさに溜息をつく瀬戸口をまじまじと見て、真剣な顔つきで瀬戸口に語りかける速水。

「でもさぁ・・・瀬戸口は似合わないって言うケド、僕は壬生屋さんならきっとジュリエット似合うと思うなぁ〜」

ズルッ☆!!!

速水の台詞に途端に本に突っ伏す瀬戸口。顔を上げ蟀谷を引きつらせながら言い返す。

「はぁ???何言ってんの?お前さん、あの女のどこがジュリエットって柄だよ」

速水の言う事を信じられない!という様に速水の顔を凝視する瀬戸口。

「だって色白で髪長いし美人だしね。スタイルも意外にいいんだよ?いつもは胴着で分からないんだけど・・・ウォードレスの時なんか僕見蕩れちゃう時もあるし・・・

あ。これ、舞には内緒だよ。・・・ねぇ?若宮君はどう思う?」

速水は側で二人の会話を笑いながら聞いていた若宮に話をふった

「そうだな。ジュリエットは小隊内では・・・原さんが勿論似合う・・・が!しかし壬生屋も似合いそうだな。

芳野先生もニクイ配役をされる。美男美女か!ウム。中々いいぞ!壬生屋が相手で瀬戸口は幸せ者だなぁ〜!」

と、ガハハ笑い。

「あ!若宮君もそう思う?お似合いだよね〜vvv

にこやかに笑いあう速水と若宮。

瀬戸口は呆然と二人を見て呟いた。

「速水・・若宮。お前さん達目ぇ大丈夫か?・・・いい眼科紹介するぞ?」

 

 

 

そして。

所変わって昼休み屋上にて

壬生屋は舞とののみと加藤の4人でお弁当を食べていた。

「〜〜〜〜〜〜どうして瀬戸口君がロミオなんですかっ!似合いませんわ!あんな敬白男!」

壬生屋は食べかけのお弁当の箸をどん!と風呂敷の上に置くと我が身の不幸を嘆く。

卵焼きを口に運んだままもぐもぐしながら加藤はごくんと飲み込むと

「そうやろか?ロミオだったら瀬戸口意外に意外に合うんやない?あ!原さんはどう思われますぅ?」

たまたま屋上に上がってきた原は意地悪そうに笑って壬生屋を見た。

壬生屋(パイロット)を苛めていいのは整備主任の私だけよvvと普段豪語しているだけあって壬生屋を苛める(からかう)のが原の日課である。

しかし原的には壬生屋を可愛がっているつもりらしいが・・・(笑)

加藤に尋ねられ腕を組んで人差指を頬に当て考える。

「そうねぇ〜長身で彫りの深い西洋顔だし・・顔はまぁ〜小隊では美形に入る方なんじゃないの?これ以上はないっていう適役ね。

壬生屋さん相手が瀬戸口君で良かったじゃないの。」

と、にっこり笑う。

流石デビル原。壬生屋が嫌がる亊を言って喜んでいる。それに気がつかない壬生屋は原が本気で言ってるものと勘違いして、

「なっ!原さん迄・・・酷いです!!瀬戸口君にロミオなんて似合いません!あんな軽薄男!!!嗚呼芳野先生お恨みします〜」

泣きながら壬生屋が袖で顔を覆うと

その壬生屋の横で一部始終をまったりと聞いていたののみは、お弁当を食べ終え、

はふぅと溜息をつくと可愛らしい小さな手をほっぺに添えた

「みおちゃんがおひめさまで〜たかちゃんがおうじさまで〜すてきなの〜おにあいなの〜」

配役の感想をうっとりと素直に言うののみに

「ののみさん迄っ!どこがお似合いなんですかっ!!!」

ののみにあたる壬生屋

「ふぇええ・・・」

壬生屋に怒られ半泣きになるののみ。ののみの頭をよしよしと撫でて舞は毅然と壬生屋に言い放った

「壬生屋。ののみに当たるな。決定事項だ。あきらめるがよい。変更は許されぬ。」

「そんなぁ〜芝村さんまでっ」

最後の頼みの綱の舞に迄見捨てられ今度は壬生屋が泣き出したくなった。

 

 

 

【3】

 

それから毎日授業が終わった放課後・・・

主要配役の人間が1組の教室に集まり、セリフの合わせの稽古をしていた

「嗚呼・・ロミオ・・・どうして・・貴方は・・ロミオ・・なの・ですか?」

カチンコチンの凄まじい棒読みの壬生屋に対して

「おお・・・ジュリエット・・・」

セリフはスラスラだが気持ちは全然篭っていない演技に上の空の瀬戸口。壬生屋と視線を合わせようとすらもしない。

 

「カーーーーーーーっト!!!駄目です二人とも!!!全然気持ちが篭ってないじゃないですか!」

メガホンを握った坂上の罵声が二人に飛ぶ

「すみません・・・・」

しゅんとする壬生屋を横目で見ながら瀬戸口が坂上に向き直り

「・・・先生やっぱり配役に問題が・・・」

配役に異義を唱えようとする瀬戸口の言葉を遮るかの様に坂上が叫ぶ

「劇とはいえ失敗は許されません!嫌だといえば幻獣と戦わないで済むのですか?済まないでしょう?」

「それとこれとは関係がないんじゃあ・・・」

瀬戸口が更に口を挟もうとしたが

「それに我々は戦争をしているのですよ?オペレーターとパイロットのチームワークが悪くてどうしますか!」

「特に壬生屋さん!貴方の芝居はセリフが棒読みで幼稚園児並ですよ!ヒロイン役の貴方が大根役者でどうします!」

演技の下手さ加減を坂上に指摘されびくりとする壬生屋。

「すみません・・・わたくし・・・わたくし・・・」

壬生屋の蒼い瞳が涙でいっぱいになり、泣きながら教室を飛び出して行ってしまった

 

瀬戸口は壬生屋が出ていく後ろ姿を苛々しながら見つめる。

「フン・・・あんな我が侭女いなくて清々する!このまま役を降りてくれればもっといいけどな!」

吐き捨てる様に呟く瀬戸口。

「瀬戸口・・・言いすぎだよ。」

速水は瀬戸口を嗜めた。

 

 

 

それから1週間近く放課後に練習は続けられ、その間も出撃も何度かあり、色々な事が重なり5121小隊の全員は疲労困憊で練習の方もおざなりになりつつあったある日。

夜。もう夜半近くになろうとしている時間

早めにののみを帰し一人仕事をしていた瀬戸口はようやく仕事を終え、

指揮車を出た所で速水に声をかけられた・・・

「瀬戸口。ちょっと!」

速水の姿を見て顔を綻ばせる瀬戸口

「なんだ?速水か。どうした?」

「いいからちょっと」

速水は瀬戸口の腕を掴むと強引に歩き出す。瀬戸口は速水に引きずられる様についていった。

「俺疲れてるんだけどなぁ・・・」

授業に出撃に整備に稽古にと全員が疲れ果てていた。

速水はフフッと笑うと

「皆そうだよ。いいからちょっと来て」

促されるまま速水に着いていくとそこは人気のない体育館裏で、

まさにバックで如何わしい音楽が流れそうな雰囲気に

「速水〜とうとうその気になってくれたのか?」

と速水に抱きつこうとする瀬戸口!

それを速水はさらりと交わし

「僕、冗談は嫌いだよ。それとも瀬戸口は本気で男を抱きたいの?」

速水が疑いの冷たい眼差しで瀬戸口を見る

「冗談だよ。俺だってお嬢さんの方がいいさ」

おどける瀬戸口を苦笑いしながら速水は見つめそして真顔になって

「あそこ・・・見て」

と、体育館の一角を目線で指し示した。

「ん?なんだ???」

瀬戸口が速水が指さす方に視線を向ければ・・・

そこには一人稽古をする壬生屋の姿が。

「あの女仕事さぼってあんな事やってんのか!?自分勝手にも程があるぞ!・・・」

瀬戸口は冷ややかな目で壬生屋を見た。どうしてあの女は俺の神経を逆撫でするのだろう?

「違うよ。壬生屋さんは全てをこなした上でやっているんだ」

「な・・・」

1番機機は特攻癖のある壬生屋の所為でよく故障するので整備にも時間がかかる筈だ。

放課後一度皆で稽古して、それから夕方から整備・・・もしかしてそれが終わってからやってるのか??

瀬戸口は壬生屋の姿を見つめた。

「壬生屋さん夜遅くまで残って一人練習しているんだよ。すごく一生懸命なんだ・・・影で頑張ってる壬生屋さんって不器用だけど可愛いよね。」

速水はそう言って壬生屋を見て優しく微笑む。

瀬戸口は無言で壬生屋を見つめた・・・。

遠目でも分かる壬生屋の額の汗が稽古に対しての真剣さを物語っている。

「壬生屋さんは皆の足を引っ張らない様に毎日必死で練習しているんだよ。瀬戸口はそんな壬生屋さんを見ても、それでも自分勝手だって言うの?」

瀬戸口は唇を噛みしめた。

壬生屋の下手な演技をいつも罵っていた・・・

わざと下手に演技して劇を台無しに・・・もしくは劇を中止にさせようとすら考えていた愚かな自分・・・

俺は・・・俺は・・・なんて大馬鹿野郎なんだ・・・

 

「速水・・・・俺・・・行ってくる」

「うん!頑張って!」

速水は瀬戸口の背中を見送った。

 

 

壬生屋が体育館で一人黙々と稽古をしているといきなりドアがバン!と開かれ

「壬生屋。練習するぞ。」

と、突然背後から声をかけられ驚き振り返る壬生屋。

其所にはばつの悪そうな顔の瀬戸口が立っていて、壬生屋は蒼い瞳を驚きで瞬かせた。

「!?せ・・瀬戸口・・・君・・・???どうして此処に??」

瀬戸口は壬生屋を真剣な顔で見つめると頭を下げた。

「俺が悪かった。お前さんは整備もこなして一生懸命練習もしてたのに・・・けなしてばかりで・・・

俺達が皆の足を引っ張る分けにはいかないからな・・・だからこの劇の間だけは・・・一時休戦だ。仲良く・・やろう・・・な。」

瀬戸口が顔を上げ、ぎこちなく手を差し出し壬生屋に握手を求める

壬生屋は暫し瀬戸口を見つめ真剣な気持ちだという事を悟り

「分かり・・・ました。一時休戦ですね?」

そう言って瀬戸口の手を握って壬生屋が瀬戸口に向けて微笑んだ。

「!!!」

初めて自分に向けられた壬生屋の満面の笑顔に胸を“きゅん”と鷲掴みされた様な感覚に陥る瀬戸口。

『こいつ・・・こんなに可愛いかったっけ?というか、なんだこの胸の高鳴りは・・・ドキドキする・・・』

愛の伝道師らしくもなく頬を赤く染め蓬けた顔をして握手をしたまま瀬戸口はたじろいだ。

『壬生屋の手・・・剣を握っている割に以外と柔らかいな・・・嗚呼こいつはパイロットとはいえ女なんだよな・・・』

瀬戸口がぼーーーっと壬生屋の手を握っていると

「どうかなされました?」

握手したまま無言で固まっている瀬戸口を心配する壬生屋。

瀬戸口は慌てて壬生屋の手を離した・・・名残惜しそうに。

「いいや・・・何でもない。ホラセリフ合わせるぞ」

「はい!」

二人は台本に目を落とし台詞合わせを始めた。

 

 

外からその二人の様子を見て微笑んでいる速水。

すると舞がやってきて速水に声を掛けた

「厚志!此の様な所で突っ立って何をしておる・・・?何故中に入らないのだ?」

実は舞が此れ迄ずっと壬生屋の稽古の相手を務めていた。

そして速水はいつも練習熱心の二人をサポートして来たのだった。

「しーーーーーーーーーーっ」

舞に気付き人差指を口に当てて、舞に静かにする様にジェスチャーをする速水。

訝しげに速水に近づき舞は速水を問いただした。

「厚志???・・・・何だ?どうしたのだ。壬生屋が稽古をしているのだろう?私は壬生屋の稽古の相手をせねばならないのだぞ?」

速水は舞に向かってにっこり微笑んだ

「もう舞が手伝わなくても良いみたいだよ。ホラ」

速水が指さした先には瀬戸口と壬生屋の二人が熱心に稽古をしている姿が・・・。

「瀬戸口!?何故あ奴が?」

驚く舞。

「壬生屋さんの一生懸命な気持ちが伝わったみたいだね。」

「そうか・・・ならば私はもう用済みか・・・」

「そんな事ないよ舞。僕がいつも舞を必要としてるでしょ?」

寂しそうな舞の肩を速水が抱き寄せキスしようとしたら・・・

突然体育館から聞こえる喧嘩腰の二人の声

「だーーーー!!!お前さん要領悪すぎるぞ!そこは違うだろーが!」

「な・・・・・何ですってぇえええ!?」

いつもの喧嘩ごしの会話が始まる。

 

速水はあちゃーと手で顔を覆い。

舞は不敵に微笑みながら

「まだ私の助力も必要な様だな」

そう言って笑うと二人が稽古している体育館に颯爽と向かう揺れるポニーテール。

速水は

「ヤレヤレ・・・乗りかかった船だし仕方ないか・・あーあ暫く二人きりはお預けだね・・・」

苦笑いしながら舞の後に続く速水。

 

 

 

それから数日後。

ようやく瀬戸口と壬生屋の二人の演技の息が少しずつ合ってきた

周りの人間も二人を見て安堵し、次第に練習にも熱が入っていった。

 

 

文化祭迄後1週間を切ろうとしていた・・・

 

 

 

 

【4】

 

文化祭も近くなったある日の放課後

 

稽古にも熱が入ってた頃衣装が次々と出来上がってきていた

その日はたまたま他の皆はまだ教室に集まっていなかったので、瀬戸口と壬生屋が二人で合わせ稽古をしていたら、大道具係の加藤が大きな袋を抱えて教室に入って来た。

「衣装よ〜やく出来たで〜はい。これ未央りんのな。」

加藤から衣装を受け取る壬生屋はすごく嬉しそうで、瀬戸口はそんな壬生屋を見て自分も嬉しくなった。

「有り難う御座居ます。ふふふvvv早速着替えてきますねv」

教室を出て行く壬生屋の後ろ姿を見ながら、加藤に視線を戻した瀬戸口

「衣装出来たのか・・・。加藤、俺のは?」

と、言うと

「ほい。これ瀬戸口の」

加藤に紺色の衣装を手渡された。

「サンキュ。」

瀬戸口が自分の衣装の出来の良さを、ほほぅと感心しながら眺めていると、独り言の様に加藤がとんでもない事を言いだした。

「未央りんの衣装は身体のラインぴったりに作ったからなぁ〜あの格好は男共には刺激強すぎるかもな〜」

「なっ!何だって!?加藤お前さん・・一体何を・・・???」

瀬戸口が加藤を問いただそうとしたら、壬生屋が着替えから戻って来ていて入口から顔を出してもじもじしている。

気のせいだろうか顔が赤い様だが・・・?。

「ま・・・祭さん・・この服ちょっと・・・窮屈な気がするんですが?」

「さよか〜?ぴったりやろ〜?」

身体のラインにぴったりで男には刺激が強い?・・・嫌な予感がする・・・・瀬戸口は何故かそう思った。

「でっ・・でもぴったりすぎるというか・・・」

壬生屋は恥ずかしがって中々教室に入って来ない。

「いいから〜早くみせてーな!」

加藤が笑いながら壬生屋に手招きをすると

「はい・・・その・・・笑わないで・・・下さいね?」

ドアの影から出てきた壬生屋のそのナイスバディにジャストフィットした衣装は壬生屋の身体のラインがまる分かりであまりにも刺激的で・・・

「ブッ・・・ゲホゴホ!!!」

瀬戸口は壬生屋の姿を直視できずに真っ赤になってむせて咳き込んだ

なまじ裸より性質が悪い。こんな壬生屋の・・・その・・えっちな姿を見たらこぞって男共が壬生屋に感心を持つにきまってるだろうが!そんなの駄目だ!こんな服着せてたまるか!!!と思ったら思わず瀬戸口は叫んでしまっていた。

「駄目だ!駄目だ!こんな衣装!」

尋常ではない剣幕の瀬戸口の様子に驚いている女性陣。

「駄目ぇ?ど〜ぉしてぇ?瀬戸口ぃ〜未央りん綺麗やんか〜」

「もっと服にこう、だぼっと・・・ゆとりをもってだなぁ〜」

「なんで〜?いいやん。この方が男客の受けもいいと思わん?」

加藤が瀬戸口を煽る様に笑いながら言うと

「だから駄目だと言ってるんだ・・・このッ・・・馬鹿!」

加藤を怒鳴りつける瀬戸口。加藤は驚いて蟀谷を引きつらせた。

「なっ!・・馬鹿迄言うか普通。ふぅ〜ん瀬戸口はぁ〜未央りんの〜この格好を他の男連中には見せとうない訳やね?」

ぐふふと笑いながら瀬戸口を見つめる加藤。

「なっ!」

瀬戸口は図星をつかれ二の句も継げられない。

「はい???」

壬生屋は意味が分からずキョトンとしている。

「ううっ。〜〜〜!!!!と・・・とにかく駄目ったら駄目だ!!!」

瀬戸口は怒鳴りつける様に叫んだ。

瀬戸口が何故怒っているのか理由も分からなかったが

「祭さん。わたくしもちょっとこれは・・・恥ずかしいです・・・」

壬生屋が恥ずかしそうにしていると、加藤は持ってきた袋をごそごそさせた

「さよか〜。じゃあ。しゃあないな!じゃ未央りんこっちの衣装着て。」

と違うデザインの服を壬生屋に手渡す。

「へ???」

予想しなかった展開に驚く瀬戸口。勿論壬生屋ももう1着あるとは思っていなかった。

「あら2着あるんですの?」

壬生屋が加藤に尋ねると、加藤は苦笑いしながら壬生屋に言い訳をした。

「やっぱりサイズ合わんかったね〜それは去年の文化祭用のお古。こっちはヨーコさんの自信作!」

「ではもう一度着替えてきますね」

パタパタと教室から出ていく壬生屋の後ろ姿を瀬戸口は見ながら

「加藤・・・お前・・・」

わざとだな?とは言えなかった。

何を根拠に加藤がそんな事をしたのか・・・とかツッ込みどころ満載だからだ。

言えば墓穴を掘りかねない。

瀬戸口が何か言いたげな様子な亊を察知して加藤は瀬戸口に話かけた。

「ん?何?瀬戸口?」

邪気ありまくりの笑顔の加藤が振り返る。

「・・・・何でもない。」

瀬戸口はムスッとしたまま黙りこくった。

すると加藤はヤレヤレと言った感じで溜息をつくと

「瀬〜戸〜口ぃ!。いい加減に認めたらええやん。アンタ未央ちゃんの亊好きなんやろ?」

「なっ!!馬鹿をいえ!」

慌てる瀬戸口。

「だってさっきも未央ちゃんの格好見て顔真っ赤にしとったでぇ?」

瀬戸口の顔を見て加藤はにま〜と笑った。

「それは・・・違う!さっきは・・その・・・」

加藤の指摘にグゥの音も出ない瀬戸口。

「さっきの意地悪は今迄未央ちゃんがずーっとアンタに苛められてたから。その仕返し!」

壬生屋が置いていったピチピチの服をひらりとはためかせる加藤。

「好きな子には素直になりや〜瀬戸口。じゃないと他の男に攫われるでぇ〜♪じゃあね!」

瀬戸口にウィンクしながら加藤は教室から出て行った。

「加藤・・・。」

瀬戸口は加藤に言われた事にショックを受け愕然としている。

 

オレガミブヤガスキ?

オレハ・・・オレハ・・・ミブヤガキライダッタハズダ・・・

・・・デモ・・・サイキンオレハ・・・

オレハ・・・・・・・・

 

 

 

暫くすると壬生屋が教室に戻って来た。

加藤の姿が見えないのでキョロキョロと見回して

「あら?祭さんは???」

と、瀬戸口に尋ねると

「どっかに行っちまったよ。」

愕然とした様子で足元の床を見つめている瀬戸口。返事も上の空だ。

「そうですか・・・この衣装姿見て頂きたかったのに・・・残念です」

壬生屋の少し落ち込んだ声。その声で、ふと・・・瀬戸口が視線を上げた

見上げた視線の先には美しく着飾った壬生屋のジュリエット姿が!

白い肌に広く開いた胸元に掛かる黒髪がサラサラと流れ清楚な中にも豊満な身体のラインの妖艶さも持ちあわせていて・・・

瀬戸口は壬生屋の姿に視線を絡め取られた様に目が離せなくなった!

「綺麗だ・・・」

瀬戸口は思わず本音を口にしていた

 

「ええっ?いっ・・今何て?」

「や・・あの・・衣装が・・な綺麗だなって・・・。流石ヨーコさんだな。今度の衣装のサイズはピッタリじゃないか。」

瀬戸口は取り繕った様に笑って言う

「そ、そうですよね衣装の亊ですよね・・・わたくしったら・・・/////」

壬生屋が頬を赤く染めて顔を手で覆った。

その恥じらう姿が更に愛らしく瀬戸口の瞳に映り

ドキ・・・・ドキドキドキドキドキ・・・

心臓が早鐘を打つ様な錯覚に陥る瀬戸口。

胸が・・・苦しい・・・。

「壬生屋・・・俺・・・俺は・・・」

「はい?」

壬生屋の愛くるしい蒼い大きな瞳が瀬戸口を見つめる・・・

瀬戸口はごくりと咽を鳴らすと壬生屋に手を伸ばしかけた・・・

が、くるりと壬生屋の前で反転して

「着替えてくるッ!!!」

と叫ぶと、自分の衣装を引ッ掴み、教室を飛び出してだだだだと走っていってしまった。

 

「変な瀬戸口君???。」

教室に一人取り残され壬生屋は不思議そうに首をかしげた。

 

廊下を走りながら瀬戸口は壬生屋の姿を脳裏に思い描いていた…耳たぶ迄真っ赤に染まっている。

普段とは違う可憐で綺麗な壬生屋を目の前にして瀬戸口は自分がどうにかなってしまいそうになるのを感じた。

「あのままいたら俺は壬生屋を抱きしめてた・・・。」

壬生屋を思わず抱きしめてしまいそうになる自分の気持ちから逃げる様に瀬戸口は教室から逃げ出したのだった。

「なんであんなに綺麗で可愛いんだ!?ちくしょう!反則だぞッ!壬生屋!!!」

瀬戸口は真っ赤になりながら尚絅校の廊下を全速力で駆けて行った。

 

 

 

【5】

 

文化祭当日

5121小隊の劇「ロミオとジュリエット」は文化祭の舞台では大トリの劇で観客も超満員だった。

劇も順調に進み、そして劇もいよいよ終盤のクライマックスに差し掛かかり、シーンと静まり返る体育館。

ジュリットである壬生屋が毒薬を飲んで仮死状態になり倒れる。

その壬生屋の元に駆けつけるロミオ役の瀬戸口。

 

「おお・・・・ジュリエット・・・俺を残して・・・どうして死んでしまったんだ・・・」

壬生屋との楽しかった稽古の日々を思い出し、この劇が終わったら・・・

もう壬生屋とあんな風な関係ではいられなくなるよなぁ・・・と瀬戸口は考え・・・

なんだか切なくなり横たわっている壬生屋をじっと見つめる。

そこには・・・瞳を閉じた壬生屋が横たわっていて、

艶やかな黒髪、長い睫、薔薇色の頬、ピンク色の小さい愛らしい唇・・・壬生屋の何もかも・・・全てが愛おしく思えて。

今迄どうしてあんなに嫌っていたのだろうと自問自答しても明確な答えは見つからないが・・・

多分己の気持ちを認めてしまえば、惹かれてしまうのが分かっていたから・・・避けて・・・運命に逆らおうとしたのだろうな・・・

自虐的に心の中で笑う。

・・・己が滑稽だった。

初めから惹かれていたのに、分かっていた筈なのに・・・捕らわれるのが怖くて逃げていたなんて・・・

滑稽すぎて泣きたくなった。

 

愛おしい思いが溢れそうになった瀬戸口はその瞬間劇の最中である事を忘れ

そして揚げ句の果てには台本にそんなシーンはないのに壬生屋を抱きしめてしまい、劇の関係者の間に緊張が走る!

瀬戸口に抱きしめられ、慌てる壬生屋。

『え?抱きしめるなんて・・・そんなシーンなんてありましたでしょうか???瀬戸口君のアドリブかしら・・・???』

壬生屋は瀬戸口の行動を疑問に思ったが劇の最中なので演技を続ける。

『壬生屋・・・認めるよ。俺は・・・お前さんの亊が・・・好きだ・・・愛して・・いる』

心の中で瀬戸口はそう告白すると・・・そっと抱擁を緩めると

横たわっている壬生屋の唇に吸い寄せられる様に自然に口付けた。

「んッ!?」

本当は観客から見えない位置で寸止めの筈だったのに

瀬戸口の柔らかい唇の感触がキスが現実だと言う事を壬生屋に思い知らしめる

驚きで瞳を見開く壬生屋。瀬戸口の穏やかな顔を見て一瞬怒りも萎えるが、恥ずかしさで顔がだんだん赤くなってきた

でも今は芝居中だ我慢せねば・・・と思おうとして瞳を瞑ったのだが、瀬戸口があろうことか何と舌を入れてきた!

 

流石にブチ切れる壬生屋!瀬戸口を突き飛ばし、徐に起き上がり叫んだ。

「なっ!!!!!!なんて事するんですか!!!!」

すると、瀬戸口は慌てて取り繕う様に

「おおっ!ジュリエット!・・・生き返ってくれたのか!」

「???生き返った?って・・わたくしは死・・」

壬生屋はそう言いかけでハッ!とした。

ざわざわざわ・・・・思わぬ展開に観客席に動揺が拡がっている。

『何て事を・・・』

壬生屋は自分の失態に愕然となった。

ジュリエット役の自分が今この場面で生き返ったら話が変わってしまい劇が台なしになってしまうではないか!

内心焦る壬生屋。

『劇が・・・台なしに!どどどどうしましょう・・・』

壬生屋が精神的にかつてこれほどの緊急事態に陥った事があるだろうか?イヤ、ない(笑)

戦場でゴルゴーンの群れに囲まれた時でさえここまでは焦らなかった。

しかし・・・生き返ってしまった以上また死んだフリをする訳にもいかない。

こうなったらどうにかして話しの辻褄を合わせて終わらせないと・・・

焦る壬生屋。

動転したままで話を繋げようと必死で言葉を紡いだ。

「ロ・・ロミオ・・・あっ・・貴方の愛で蘇りましたの」

と言うと、瀬戸口は破顔して

「そうか!嗚呼神様感謝致します!俺の女神を返して下さって・・・・・ジュリエット・・・愛しているよ・・・」

瀬戸口の顔が又壬生屋に迫る!慌てて逃げようとしたが簡単に瀬戸口に捕まり口付けられてしまい☆

「ちょっ・・瀬・戸・!んんっ!!!・・」

またもやディープキス!そして今度のキスは初めのよりも更に濃厚だった!

流石に壬生屋はショックのあまり目を白黒させ昏倒した。

あわてて降りる幕のその隅からナレーションの加藤が現れ、

「ハハハ・・・やっぱり物語はハッピーエンドじゃないとね!ちゅうことで終演や!」

と扇子で額を叩くと、わっと盛り上がる観客の学兵達。

なんとか無事に?劇が終り、どっと気が抜けたのか座り込む5121小隊のメンバー達。

それを尻目に瀬戸口は一人満足そうに気を失った壬生屋を抱きしめて嬉しそうに微笑んでいた。

そでで舞台を見ていた舞とののみはその光景を見て

舞は苦々しく

「たわけが・・・」

と呟いたが、顔は嬉しそうで。

ののみも、ニコニコしながら

「たかちゃんうれしそうなの〜」

「そうだな・・・」

ののみの頭を撫でる舞。

そして舞とののみの二人を後ろから速水がぎゅ〜しながら

「うん。やっぱり僕達5121小隊の物語はハッピーエンドじゃないとね!」

と微笑んだ。

 

 

 

 

 

*****

そ・し・て

 

文化祭も終り日が暮れて・・・窓から差し込む夕陽の眩しさにようやく目を覚ます壬生屋。

「う〜〜〜ん・・・・・・」

壬生屋が目を覚ますと其所は詰所の簡易ベッドの上だった。

衛生係の萌が壬生屋の介抱をしていた様で一番に気がつく

「壬生・・屋さんが・・気が・・ついた・・わ」

壬生屋の意識が戻った事を喜び、ベッドの周りに集まる壬生屋と親しい人々

「壬生屋!意識が戻ったのか?」

と、真剣な面持ちの舞。

「壬生屋さん・・良かった。皆心配したんだよ?」

と、ぽややんと柔らかく微笑む速水。

「みおちゃんだいじょうぶ〜?」

と、心配そうに壬生屋を見つめるののみ。

「未央ちゃん良かったなぁ〜良かったなぁ〜」

と、喜んで涙ぐむ加藤。

 

現状を把握出来ずぼーーーっとしている壬生屋。

「芝村さん・・・此処は・・・?わたくしは一体・・・?」

「ここは詰所で、お主は舞台で劇の途中で気を失ってしまったのだ。身体はもう大丈夫なのか?」

舞の問い掛けを疑問に思い壬生屋は自問自答するが、

「劇の途中に?・・・そういえばどうして気を失ったのかしら・・・???」

自分が倒れた原因を中々思い出せない。倒れたショックからか記憶があやふやになっているのだ。

顔を見合わせる舞、加藤、速水。

萌が壬生屋を見てボソリと呟く。

「軽・・い・・記憶・・障・・害・・かも・・しれない・・わ」

加藤は溜息をつくと、恐る恐る壬生屋に話かけた

「あのなぁ〜未央りん・・・落ち着いて、よ〜聞いてや・・・」

「はい?」

オブラートに包んだ様な加藤の物言いに壬生屋が首をかしげていると倒れた原因が慌ててやってきた!

ドタドタドタドタドタドタドタ ガラガラッ バンッ!

血相変えて詰所のドアを開け入って来る瀬戸口。起きている壬生屋を見て顔を綻ばせる。

「壬生屋が意識を取り戻したって?大丈夫か?壬生屋。」

心底心配してくれる瀬戸口の様子に頭を下げる壬生屋。

「瀬戸口・・・君。申し訳ありません。わたくし・・・気を失ったりして劇を台無しにしてしまって・・・」

「へ?」

見当違いな壬生屋のセリフに一瞬固まる瀬戸口。

その場にいた壬生屋とののみ以外の全員の無言の冷たい視線が瀬戸口に降り注ぐ

瀬戸口は嫌な汗を背中にかきながら

「いや。俺が調子にのった所為だし・・」

顔を赤くしながら壬生屋から視線を反らす。

『え?瀬戸口君の所為???何か失敗されたのでしょうか?・・・』

壬生屋が理由も分からず首を傾げていると

舞が怒りを堪える様な口調で瀬戸口をたしなめた。

「瀬戸口!!!お主悪ふざけがすぎるぞ!劇の内容を勝手に変更しおって!

来須が機転をきかせて幕を降ろしたからいいものの・・・誤魔化すのが大変だったのだぞ」

舞の言葉をぼんやりと聞いていた壬生屋だったが

「変更・・・?」

ぽそりと呟いた変更という言葉で記憶が鮮明になる壬生屋

 

 

ハッ!!!

 

 

そういえばあの時!瀬戸口君に台本にないキスをされて・・・それから・・・

瀬戸口の舌の感触を思いだす壬生屋。顔が茹で蛸の様に真っ赤に染まる

「壬生屋?どうした?」

突然真っ赤になって黙り込んだ壬生屋を心配する舞

「顔が赤いな・・・熱でもあるのか?」

瀬戸口が壬生屋のおでこに手をあてて、ん〜?と考えていると

壬生屋はプルプル肩を震わせて声を搾り出す様に言った

「瀬戸口・・・君。・・あ・・・貴方がっ!!!わたくしに何をしたのか今思いだしました!!!!」

「・・・えーと・・その、良かったか?俺とのキス」

照れ隠しに瀬戸口が茶化そうとするが

「この・・外道〜〜〜〜〜!!!!悪鬼!成敗〜!!!!!」

そう言うと枕元にあった鬼しばきを抜刀し瀬戸口に降り下ろした。

素早い猫の様な動きで剣先を躱す瀬戸口

「おおっと。キス位で怒るなよ可愛い愛情表現じゃないか!」

一気に顔を赤く染めて激高する壬生屋

「キ・・・キス位って・・・わ・・わたくしの・・・ファーストキスを!!!・・・

許しませーーーーーーーーーーん!!!!!!そこにお直りなさい!!!!!!成敗しますっ!!!!!」

「ハハハ〜照れるな照れるな♪」

笑いながら走って逃げる瀬戸口。

「照れてませーーーーーーん!!!!」

そして瀬戸口を追う壬生屋。

 

それを見てののみが

「たかちゃんとみおちゃんのけんかは、いぬもくわないことなのよ」

と、言うと、詰所は大爆笑になった。

 

 

それからの瀬戸口は・・・

自分の気持ちを認めてしまえば後は底なし沼に嵌まり込む様に壬生屋の事を好きになっていて

次の日壬生屋に告白をした瀬戸口は口をパクパクさせて狼狽えている壬生屋を強引に抱きしめて接吻た!

ショックで固まる壬生屋をいい事に何十分も接吻て・・・ようやく口付けから開放し、潤んだ瞳で壬生屋を見つめる瀬戸口

「提案なんだが・・・好きなんだ壬生屋・・・。俺と付き合ってくれないか?」

と言うと、固まっていた壬生屋の肩がぴくりと動き・・・

「ふっ・・・・・・不潔でーーーーーすーーーーー!!!!」

パーーーーーーン!!!

瀬戸口の頬には壬生屋の容赦ないビンタの跡が(笑)

恥ずかしさの為か脱兎の様にその場から走り去る壬生屋。

ぽかーんとその場に立ち尽くす瀬戸口だったが・・・

ハッ!と気を取り直し逃げた壬生屋の後を追いかけ出した。

「壬生屋〜本当だって!愛してるから〜」

「不潔ですっ!不潔ですっ!不潔ですっ!不潔で〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜すっ!!!!」

瀬戸口と壬生屋の恋人迄の道のりは長く険しい道になりそうだった・・・

 

 

 

笑劇。

 

作品紹介・・・つか言い訳チック

実はこれ某所に投稿した物だったりします(滝汗)その時使っていたPNと違うので読まれた方で私の作品だと分かられた方いるんでしょうか?(笑)今思えばヘボいなりに頑張って書いていたなぁ〜とか思いますが(*´∇`*) とにかく瀬戸口が壬生屋に惚れていく樣を書くのは毎回すっごく楽しいですなぁ〜ほほほ。所詮ラブ米好きなもので