雪の華

 

by.櫻

 

 

ひらりひらりと・・舞い降りる雪が掌に落ち溶けてゆく・・・

 

キン…と冷えた静寂が支配する闇の中で・・・

壬生屋は薄着の胴衣のまま月が見え隠れする空を見上げ校舎裏に立ち尽くしていた

 

日付は12月25日。クリスマス。深夜12:00過ぎ・・・

24日のイブの夜から5121小隊でクリスマスパーティが催され、

日付が変わった今もまだパーティは続いていた。

壬生屋はその喧騒の中から一人になりたくて教室をこっそり抜けて来たのだった。

 

 

垂れ込めた雲の隙間から覗く月の光が闇の中に佇んでいる壬生屋の姿を

スポットライトで照らすかの様に浮き上がらせる

まるで月の女神を照らすかの様に。

それぐらい神秘的で・・・神々しいほどに闇夜に佇む壬生屋の姿は美しかった

 

 

 

 

暫くの間、壬生屋がそっと目を閉じていると、

人が近づく気配がして・・・

耳に心地の良い美声が壬生屋の背後から聞こえた。

「寒いと思ったら雪か。」

振り向かないでも分かる。わたくしが生涯愛する亊を誓った方・・・

 

「瀬戸口・・・さん」

壬生屋は振り返る事もなく瀬戸口の名を口にした

「壬生屋、そんな胴衣姿で寒くないのか?馬鹿だな。風邪を引くぞ?」

と瀬戸口は戯けた様に笑う。

 

「・・・わたくしは・・・」

両手を胸の前で組んでぎゅっと握りしめる

壬生屋は瀬戸口に何か言いかけようとした

「ん?」

不思議そうに壬生屋言葉の続きを待つ瀬戸口

暫くの間を置いて

「いいえ。・・・何でも・・ないです。」

覇気のない言葉を瀬戸口に返す壬生屋。

瀬戸口はそんな壬生屋を見てフーッと溜息を漏らすと

「言いたい事があるなら言った方が楽だぞ?」

瀬戸口は笑いながら壬生屋の後ろ姿を見つめ・・・ふと真顔になった。

強い風に棚引く壬生屋のぬばたまの黒髪。

その光景は記憶の中の誰かを思い起こさせる・・・

瀬戸口は壬生屋を見ていると何故か胸の奥底が締めつけられる様な切ない気持ちになった。

 

 

 

 

壬生屋はゆっくりと瞼を閉じる。

そう・・・。

何でもありません。

この秘密はわたくしの心の片隅にあればいい・・・

 

 

 

 

わたくしは・・・

貴方が死んでしまった世界を捨て

新たなループの世界を選んだ。

貴方が死んでいない世界。

貴方が生きている世界。

そして

貴方がわたくしを・・・愛していない世界

 

命に代えてでも、もう一度・・・せめて・・・もう一目でも会いたかった貴方が・・・この世界には存在する。

でも。

oversの存在であるわたくしがこの世界の彼に介入すると又悲劇が訪れてしまいそうで・・・

 

ループ前の世界で貴方は戦闘中にわたくしを庇って死んでしまったから・・・

血溜まりに横たわる貴方の骸・・・

己の半身を引き裂かれる様な慟哭と痛み

もう・・・そんな思いはしたくないの・・・

貴方がいない世界は哀しみと絶望しかなかった

 

ループしたこの世界に貴方は存在するけど

以前と変わらずわたくしは貴方を愛してるけど・・・

怖くて貴方に気持ちを伝える亊ができなくて・・・

 

 

 

この世界にいられるのなら・・・

貴方に愛されなくてもいいの。

もしも、

貴方にこの想いを伝える事さえ出来ないまま

わたくしがこの世界で死んでしまって・・・

貴方がわたくしの亊を忘れても・・・・

それでもいい・・・。

貴方がいてこそのわたくしの倖せ。

誰にも譲れない・・・倖せ。

 

貴方が存在するこの世界での一瞬一瞬が・・・わたくしにはかけがえのないものだから。

 

 

壬生屋は瀬戸口に視線を向けずに儚げに微笑み

「寒いなら教室に戻ったらどうですか?わたくしは鍛えておりますから平気です・・・」

壬生屋がそう言うと

瀬戸口は自分の髪の毛を手でクシャクシャにして

「馬鹿だな。愛の伝道師がレディをこんな寒空に外にほっておける訳ないだろうが!」

と、言うと瀬戸口は突然壬生屋の手を引き己の腕の中にぎゅっと強引に抱き寄せた。

突然の瀬戸口の行動に驚く壬生屋

「あっ・・・」

不意に瀬戸口の温かな腕に包まれ壬生屋の心音が激しくなる

震える心。愛する人の抱擁に全身の細胞が歓喜の声をあげる

「こんなに身体を冷やして・・・大馬鹿だよお前さんは・・・」

壬生屋の頭を優しく撫でる瀬戸口。まるで・・・幼子を宥める様に。

「あ・・あの・・・」

顔を朱に染めて壬生屋は瀬戸口に訴えた

「なんだ?」

気恥ずかしさから瀬戸口と視線を合わせる事が出来ずに壬生屋は俯き加減に

「寒くありませんからッ・・・離して下さいませ」

そう言って瀬戸口の腕から逃れようとしたが

「俺が寒いの!お前さん俺の湯たんぽな」

更に強く瀬戸口に抱きしめられてしまう。

「教室に戻ればいいじゃないですか!」

突放した物言いの壬生屋に対してあっけらかんとしている瀬戸口。

「泣きそうな女をほっとけない性分なんでね」

 

壬生屋はハッとして瀬戸口を見上げた。優しい笑顔・・・

ループ前の世界で私に向けられていた時と同じ・・・アメジストの瞳の優しい貴方の笑顔

「温かいだろう?」

白い歯を見せて笑う瀬戸口に

嗚呼・・・この人には一生敵わない・・・と壬生屋は思った。

心の奥底に深く深く押し隠していた感情が彼には分かってしまうのだろうか?・・・・

 

 

 

貴方にふれたい

貴方に愛されたいと

嗚呼・・・神様・・・今だけでいいですから・・・

 

 

 

壬生屋は瀬戸口にこのまま抱きしめていて下さい・・・と思いながらも

「離して・・・他の方に勘違いされても知りませんから・・・」

逆の言葉が口からすべり出てしまう。

壬生屋は自分の意固地な性格を呪いたくなった。

耳朶迄真っ赤に染め上げて瀬戸口から少し視線をずらした壬生屋を瀬戸口は優しい眼差しで見つめ

「いいさ。別に勘違いされて困る様な人は俺にはいないし」

「でも・・・」

「お前さんは嫌なのか?」

と、心配げに瀬戸口が問うと

「嫌ではありません・・・それに嫌だったら・・・」

その続きを言葉にするのを躊躇う壬生屋

「嫌だったら?」

意地悪く笑いながら壬生屋の言った言葉を復唱する瀬戸口

「・・・鬼しばきで張り倒しています・・・」

か細い蚊の鳴くような声で返す壬生屋。

「だろうな。」

ククッと笑った瀬戸口は、それから壬生屋の耳元に顔を近づけて

「じゃあ・・・期待していいって亊?」

と甘く囁いた。

「期待???なっ・・・何を!?です」

息が掛かる位の至近距離で囁かれ狼狽える壬生屋

その壬生屋の慌てた様子を見て瀬戸口は目を細めて笑い

「お前さんが俺に気があるって・・・こ・と♪」

「違っ・・」

慌てて否定しようとする壬生屋に

「だって逃げないじゃないか」

俺の言い分が正しいだろう?と言わんばかりの瀬戸口

「違いますっ!貴方の力が強すぎて・・・その・・」

 

瀬戸口は狼狽える壬生屋を優しく見つめ・・・そして

「俺は・・・壬生屋。お前さんの亊が好きだよ」

と言った。

瀬戸口の突然の告白に驚愕に見開かれる壬生屋の大きな蒼い瞳。

そこには極上に微笑む瀬戸口の笑顔が映っている。

「!!!嘘・・・。」

信じられないとでも言う様に瀬戸口を凝視する壬生屋。

「本当。だからこれからお前さんとその・・・な関係になりたいんだけど?駄目?」

壬生屋は上気した顔で力なく呟いた

「ふっ・・・・不潔・・です・・・」

 

瀬戸口はそんな壬生屋を可愛いなぁvとか思いながら

「暖い場所でもっと・・・な亊しょうか?」

更に言葉を続ける瀬戸口に

「し・・・知りませんッ!」

壬生屋が照れてプイと顔を背けると

壬生屋の首筋に顔を埋めた瀬戸口は今迄とは打って変わった真剣な声音で・・・

「愛してるから・・・壬生屋。俺はお前さんを本当に愛してるんだ・・・だから・・・」

今迄以上にぎゅっと強く抱きしめられ壬生屋の胸は熱くなる。

 

 

『嗚呼・・・神様・・・夢なら醒めないで・・・』

壬生屋は嬉しさで涙を堪えるのが精いっぱいだった

震える声で

「わたくし・・も・・ずっと・・・貴方を・・・」

感極まって言葉を続けられない壬生屋

瀬戸口の指が壬生屋の頬をそっとなぞり

 

「メリークリスマス・・・未央。」

瀬戸口の唇がゆっくりと壬生屋の唇に重なった

 

 

リンゴーーーン・・・

リンゴーーーン・・・

リンゴーーーン・・・

 

尚絅校の側にある教会から一斉に鐘の音が鳴り響いた・・・

まるで二人を祝福するかの様に

 

 

 

二人に舞い落ちる雪の華は・・・・

しんしんと降り積もっていった・・・

 

 

 

end.

作品紹介・・・つか言い訳チック

ヘボ作6作目は・・・ん?もしかして隅から隅まで初どシリアス?かしらノーマルSSでは(笑)

私が書くとヘボ作でどーしょうもないですが一応クリスマス瀬戸壬生SSですv時間なかったんであんま校正かけてないので(滝汗)後から文章こっそり修正かけるやも〜ですが(笑)いいの桜さん絵書きだから。文章書きの上手い人がネット上には沢山いるんだから下手な人が1人いてもいーよねぇ?かと言って絵もそんなには・・・(吐血)今回のお話はOVERSな壬生屋のお話だったりーの。で、Bの世界で壬生屋は瀬戸口に死なれてて、そんな瀬戸口のいない世界に耐えられなかった壬生屋は某樣(笑)の力を借りてCの世界にやってきた訳です。でも前の世界で瀬戸口が自分を庇って死んだものだから、Cの世界にいる瀬戸口に自分の想いを伝えられず想いを募らせていた・・・という話でござまふ。お題は勿論中島美嘉嬢の『雪の華』なんかねーこの曲すっごい好きでこの曲のイメージしながら書きました。切ない系の曲大好きですvムフvvvヘボ作ですが感想とか頂けるとメチャ嬉しいですのでどぞツッ込んでやって下さいませ。(笑)

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