勿忘草

 

BY.櫻

 

授業も終わった放課後

ハンガーに向かっていた壬生屋は、途中でふと校庭の隅に見知った人物を見かけ立ち止まった。

足音を立てずにそ〜ぉっと近づいた壬生屋は、しゃがみ込んでいる見知った二人の背後から覗き込み声を掛けた。

「若宮さんとののみさん?こんな所で何をなさってるんですか?」

泥まみれで振り返る二人。制服やら顔や手は泥だらけだ。

花壇で何かをしていた様でスコップやら肥料が足元に散乱していた。

壬生屋に気がついた若宮は

「よぅ!壬生屋」

と、気さくな笑顔で振り返った。

そして向日葵の様な笑顔を壬生屋に向けるののみ。

「あ。みおちゃ〜ん!あのね!やすちゃんとおはなのたねをうえているの〜」

「お花ですか?」

「うん!やすちゃんのすきなひとのおはな、なのよ」

ののみはニコニコ笑って言った。

「若宮さんの好きな方の花・・・???」

意味が分からず首を傾げる壬生屋

「いや・・色がその人に似てるというだけで・・素朴なんだが・・綺麗な花が咲くんだ。」

若宮はそう言いながら照れた様に頭をかいた。

「所で何の花の種を植えられていたのですか?」

壬生屋が若宮に問うと

「ええと・・・それは・・だなぁ・・・」

何故か返事に困って照れる若宮。

壬生屋は不思議そうに若宮を見つめた。

ののみはそんな若宮をじ〜っと見て

「ないしょ〜」

と壬生屋に微笑んだ。

助け船とばかりに若宮もののみに同意する。

「そう。内緒だ。なー!東原。」

「うんっ!」

「まぁっ!内緒なのですか?二人ともズルイですよ!でも、ふふふっ・・何の花が咲くのか楽しみですね」

内緒と笑う二人につられる様に壬生屋も笑った・・・花が綻ぶ様に艶やかに。

 

 

 

そんな仲睦まじい3人を苛々した様子で遠く離れた校舎の物陰から睨む瀬戸口。

「チッ・・・」

軽く舌打ちすると指揮車へ行こうとした足を3人がいる場所へ向ける

若宮に向けられる壬生屋の微笑みは何故か瀬戸口を無性に腹立たせた。

それはいつもの事・・・俺は壬生屋が嫌いだった・・・嫌いだから苛々するんだ・・・

瀬戸口は胸が何か澱んだ物に満たされるのを感じていた。

苛々する・・・。瀬戸口は顔を顰めて心の中で毒づいた。

 

3人が楽しそうにしていると、瀬戸口はいきなり壬生屋の背後に現れ辛辣な言葉で罵った。

「オイ!壬生屋!整備の人間はお前の所為で徹夜続きだってのにこんな所で油売ってるとは・・・いい身分だな!!」

突然現れ壬生屋を罵倒する瀬戸口に驚く3人。

「せ・・瀬戸口さん・・・!」

瀬戸口に冷たい口調で罵られ即座に表情を曇らせる壬生屋。

途端に大きな瞳が伏し目がちになり涙で潤む。

「たかちゃん・・・」

ののみはそんな壬生屋を見て不安そうに瀬戸口を見上げる。

「お・・おいっ。瀬戸口言い過ぎだぞ!」

若宮は壬生屋を庇うように慌てて瀬戸口と壬生屋の間に割って入った。

睨みあう若宮と瀬戸口の二人。

「事実だろうが!こいつの無謀な特攻の所為で士魂号は大破し、整備の人間は昨日から不眠不休で整備をやっているんだぞ!」

若宮の背後にいる壬生屋を指さし睨みつける瀬戸口。

「それは・・そうだが・・でもだからと言って・・・」

瀬戸口の壬生屋へのあまりな物言いに若宮が口出ししょうとしたが、その若宮の腕を引いて止める壬生屋。

「いいんです・・・本当の・・・事ですから・・・」

そう言うと壬生屋は泣きそうな顔で笑いながら

「では・・わたくしは仕事に・・戻りますので・・・」

と、言っておじぎをして壬生屋は小走りにハンガーの方へ去って行った。

その壬生屋の後姿を見つめながら瀬戸口を非難する様に睨む若宮。

「・・・・・瀬戸口、お前・・・」

そんな若宮の視線を気にせずに瀬戸口は笑いながら

「さぁ〜ののみもお仕事の時間だぞぉ〜?」

と、言って瀬戸口がののみの手を握ろうとしたら

ぱしっと小さな手に弾かれる。

「・・・みおちゃんのこころがないてるの・・みおちゃんをいじめるたかちゃんは・・・きらい・・・」

そう言ってののみは一人で校舎の方へ走っていった。

「お姫樣は御機嫌斜めか・・・」

瀬戸口が溜息交じりに寂しそうに呟く。

先ほど壬生屋をなじっていた同じ人物とは思えない瀬戸口の表情に若宮は戸惑った。

壬生屋がいない場所ではこの男は普通の優しい男なのに・・・と、内心思う。

若宮は壬生屋を必要以上に嫌悪する瀬戸口の心が分からなかった。

「瀬戸口・・・お前だってオペレーターなんだから分かっているんだろう?壬生屋が好き好んで機体を壊している訳ではない亊を・・・戦況が悪化しているんだ・・・だから」

若宮の言葉を興味なさげに瀬戸口は一瞥すると

「・・・じゃあな・・・若宮」

そう言って片手をポケットに突っ込んで若宮に後ろを向いてバイバイする様にして歩き出す。

「瀬戸口!」

瀬戸口は何か言いたげな若宮を残してその場を後にした。

 

 

 

 

 

それから数日後・・・

比較的戦況も安定していて小隊の皆もようやく落ち着きを取り戻して来た頃

名無しの手紙で放課後の校庭に瀬戸口は呼び出された。

女性の告白だと思っていたので、浮かれ気分で向かった瀬戸口はその場にいるのがそぐわない若宮の姿を見つけて渋面になる。

「オイオイ・・・野郎の告白だったらご免被るぜ?」

と、冗談半分に瀬戸口がおどけて見せると、若宮は至極真剣な眼差しで瀬戸口を見つめた。

「俺がお前を呼び出した」

「・・・・フーン。で?愛の伝道師の俺に何の用だ?恋の悩み相談か?」

愛想笑いを顔に浮かべる瀬戸口。

若宮は暫く悩んだ末、咽から声を搾り出す様に瀬戸口に話しだした

「瀬戸口・・どうして・・・どうしてお前は壬生屋をあんなに嫌う?」

若宮のその“壬生屋”という言葉を聞いて今迄の瀬戸口の笑顔が一瞬で凍りつき一変して冷たい表情になる。

「・・・若宮・・・お前さんには関係ない事だろう?」

言葉の端々に棘がある物言いの瀬戸口

「いや・・・俺はただ・・・」

何かを言いかける若宮を振りほどく様に

「用がないなら俺はもう行くぞ」

瀬戸口がその場を足早に去ろうとしたら後ろから若宮が叫んだ

 

「瀬戸口ッ!!!俺はッ・・・お前の代わりに壬生屋を抱いた!」

「!!!!!」

若宮の告白とも取れるその言葉を耳にして、その場に瀬戸口の身体が硬直して動かなくなり・・・

バッと振り返り返った瀬戸口の紫苑の瞳は驚愕に見開かれていた

気のせいだろうか?瞳が赤みがかって周りに殺気が漂っている・・・

「な・・・なんだって?・・・俺の代わりとは・・・どういう意味だ?若宮」

 

「お前が壬生屋に冷たく当たるから・・壬生屋の心が壊れてしまいそうだったから・・・

俺がお前の代わりに壬生屋を抱いた・・・と言っているんだ。」

 

「・・・ッ・・お前が壬生屋を抱いただけで俺には関係ないだろうが!」

苛々した吐き捨てる様な口調の瀬戸口

 

「俺が抱いてる間ずっと壬生屋は・・・瀬戸口・・お前の名前で呼んでいた・・・」

 

「・・・・・・。ハッ。付きあってられないね。

若宮。お前が壬生屋の亊を好きならば、壬生屋にお前の名前を呼ばせれば済む亊だ!俺に態々言う事でもないだろう!」

 

若宮は言うのも辛そうに真直ぐに瀬戸口を見つめて言葉を紡ぐ。

「壬生屋が求めているのはお前なんだ・・・瀬戸口」

愕然と息を呑む瀬戸口。無言で若宮を睨みつける。

「・・・・・・。」

 

「どうして・・・お前なんだ・・・俺がどれだけ望んでも・・・俺がどれだけ愛しても・・・

壬生屋はお前を求めているんだ・・・お前でなければ・・・駄目なんだ」

若宮は拳をぎゅっと握り締め肩を震わせて俯いた。

 

「俺が知ったことか!!!」

瀬戸口は若宮を残したまま逃げる様にその場を走り去った・・・

 

 

 

 

 

『苛々する・・・』

瀬戸口は足早に尚絅校の廊下を歩きながら

昨日の出来事を思いだしていた。

放課後、教室で壬生屋が俺に何か言おうとしていた

「瀬戸口さん・・・あの・・・一緒に・・・」

「俺は忙しいんだ。他の奴を当たってくれ」

俺は壬生屋を冷たくあしらい通り過ぎる時に壬生屋が抱えていた物に当たってしまったらしく壬生屋の腕の中から風呂敷の包みが床に転げ落ちる

「あっ・・」

壬生屋が作って来たであろうと思われる弁当が足元に転がった。落ちた衝撃で風呂敷が解けて重箱の中身がばらける。

女1人が食べるには大きすぎる弁当が・・・。

背後で声もなく呆然と立ち尽くす壬生屋。

「・・・じゃあな。」

俺は今にも泣きそうな壬生屋を残し教室を出ていった

 

 

 

 

胸の奥がチクリと痛んだ・・・

でも毎度繰り返している光景で・・・

愛の伝道師ともあろう・・この俺が・・・

老若男女分け隔てなく人間に接してきたこの俺が・・・

壬生屋にだけは何故か優しく出来なかった

何故か

アイツを見ていると無性に苛々して心が騒めくから・・

極力係わらない様にいつも冷たく接していたのに

どうしてアイツは俺に構う?・・

何故だ!?何故ッ・・・

構わないでくれ・・・頼むから・・

俺の心を掻き乱さないでくれ・・・

 

 

「なんだって言うんだ!クソッ!!!」

瀬戸口は近くにあった掃除用具入れを蹴りつけた。

 

 

俺は壬生屋が嫌いだった。

昔愛した大事な人を思いだすから・・・・

性格は全然似ても似つかないのに・・・

姿は似てるのに性格が似てない現実が・・・シオネじゃないのが腹が立つ・・・

どうしても重ねてしまう

壬生屋の容姿が・・俺の愛しき女神・・・シオネを彷彿とさせる・・・

ぬばたまの黒髪、蒼天の空を思わせる蒼い宝石のような瞳、意志の強いその横顔迄・・・・

どうして姿形だけがそんなにも酷似しているんだ?・・・

壬生屋を見ているとシオネを思いだす・・・

もしかして・・壬生屋はシオネの生まれ変わりなのか?

 

「イヤ・・・。シオネとは違う!違うんだ壬生屋は!!!」

瀬戸口はかぶりを振った

「シオネは・・・壬生屋とは・・・違うんだ・・・」

壁に寄りかかって一人呟く

 

 

 

 

違うのだったら・・・

 

『シオネに似ている壬生屋をシオネの代わりに求めてもいいじゃないのか?』

別の声が頭の中で響く

「俺は壬生屋を好きじゃないんだ・・・」

『でも目をそらせないだろう?・・・』

「分からない・・・何故かアイツの存在が俺の中に侵食して来るんだ!気がつけば頭の中はアイツの事だらけで・・・」

『シオネを忘れたいのか?お前はシオネだけを生涯愛すると誓ったのに?』

「誰も・・・愛せない・・シオネ以外はいらない・・・んだ・・・」

『じゃあどうして他の女は愛してもいないのに抱けるんだ?』

「寂しいからだ・・・温もりが欲しいから・・・人としての証が欲しいから・・・」

『寂しいのなら哀れみででも、他の女と同じ様に温もりを求めて、シオネの面影を求めて壬生屋も抱けばいいだろうに?』

「そんな亊は出来ない・・・」

『何故?壬生屋“だけ”偽りでも愛せない???』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『瀬戸口・・どうして・・・どうしてお前は壬生屋をあんなに嫌う?』

若宮の声が頭の中で木霊した・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

それは・・・

俺が壬生屋を・・・・

!!!!!!!

瀬戸口の胸の奥から熱い感情が込み上げてくる

胸が締めつけられる様に痛い

俺は・・・もしかして・・・本当は・・

 

壬生屋を本気でシオネ以上に愛してしまうのが・・・怖いから・・・だから避けている?

 

俺は壬生屋に・・・惹かれているのか???・・・そんな馬鹿な・・・

己の本心に愕然とする瀬戸口。

壁に凭れ掛かる様にズルズルと座り込んだ。

咽がやけに乾く・・・。

そう・・・か・・・

俺は・・・シオネが死んでからずっと愛に飢えたままなんだ・・・

シオネに飢えていて・・・

愛に飢えていて・・・

1000年以上経った今・・オアシスを見つけてしまった・・・

清らかで・・・

綺麗で・・・

側にいたくて・・・

声を聞きたくて・・・

自分を見て欲しくて・・・

触れたくて・・・

抱きしめたくて・・・

咽から手が出る程に欲しくて・・・

渇望してやまないもの・・・

 

壬生屋・・・未央・・・

俺は・・・アイツが・・・欲しい・・・

しかし・・・それはシオネへの1000年の思いを・・自分の存在理由すら裏切る行為であって・・

瀬戸口は眉根をぎゅっと寄せ拳で顔を覆った

肩が震える・・・

「俺は・・・自分自身が・・許せないッ・・・」

瀬戸口の頬に一滴の雫が流れた。

 

 

その日・・・瀬戸口は苦悩したまま、朝迄寝つけなかった・・・。

 

 

 

 

 

早朝眠れないまま珍しく早く学校に着くと瀬戸口の机の中に手紙が入っていた。

『夕刻、屋上にて待つ   壬生屋未央』

 

瀬戸口は手紙を見た時一瞬手紙を捨てようかとも、このまま逃げようかとも考えたが、己の本当の気持ちを確かめるべく夕方屋上に向かった。

夕暮れのプレハブ屋根の屋上は夕焼けで真っ赤に染まり、花岡山もまるで燃える様な朱に染まり・・・

その燃える様な色合いの景色の中に毅然と壬生屋は佇んでいた。まるで炎の中に佇む戦乙女の様に。

俺が屋上にやってくると壬生屋は振り向きざま開口一番に

 

「瀬戸口君・・わたくしは貴方の事を御慕いしておりますッ!!!」

と瀬戸口に告白する。

 

壬生屋の真直ぐな言葉に心がぐらつく

自分の気持ちに気づいてしまった後では・・・壬生屋の愛の告白は嬉しかった・・

「・・・・・。俺は・・・お前が嫌いだ。」

しかし瀬戸口の口から出てきた言葉はあくまで自分の気持ちすら否定する言葉だけで。

「わたくしは貴方にどんなに嫌われても貴方への想いを止める事は出来ません」

意志の強い眼差し・・・シオネに似ている・・・

 

もう・・・シオネに似てるとか云々は関係なかった

俺は・・・壬生屋に惹かれているんだ・・・それは抗いようのない事実。

魂が壬生屋を欲している

壬生屋をこの腕の中にかき抱きたいと・・・

心と身体が悲鳴を上げている

自分の気持ちに気がついてしまった・・・

本当の俺の・・・祇園童子でもある、今生を生きている瀬戸口隆之としての気持ちに

 

だが・・・

俺には壬生屋を抱きしめる資格はない・・・

血塗られたこの腕で・・・

穢れたこの身体で・・・

どうして心も身体も・・・そして魂でさえも綺麗な壬生屋を抱ける?

 

否。出来ない。

俺がどんなに壬生屋未央という存在を渇望していても・・・

 

「瀬戸口君?」

想いに囚われている俺の無言の態度を不安そうに見つめる壬生屋。

「・・・俺は・・・!!!」

言葉に詰まる。胸が締めつけられる様だ

 

「わたくしは・・・貴方でなければ駄目なんですっ」

必至に俺に訴える壬生屋。

「勝手だな・・・俺の気持ちはどうなるんだ?」

『俺だって・・・壬生屋。お前さん以外は誰もいらないんだ・・・』

 

「貴方がわたくしを嫌いでも好きにさせてみせます!」

『俺には・・・その勇気がない・・・過去の全ての思いを捨てる勇気が』

「勝手にしろ!俺はお前を・・・一生・・好きにはならない・・・」

『どうして・・・俺は・・・素直になれないッ!?』

 

「わたくしは貴方を愛しています!!」

縋る様な壬生屋の声

 

「俺は・・・俺は・・・クソッ!!!!」

 

 

「お前なんか大っ嫌いだ!!!」

 

そう叫んだ瀬戸口だったが、振り返りざまに、想いを押えきれず壬生屋を抱きしめてしまう

「せ・・瀬戸口君・・・?」

瀬戸口の言葉と裏腹な行動に戸惑う壬生屋

「スマン・・・・」

壬生屋をそっと抱擁から解放する瀬戸口。

「何故謝るのですか?」

壬生屋から目線を反らす瀬戸口

「ちゃんとわたくしを見て下さい」

言われるままにそっと壬生屋に視線を向けると、碧の双眸が俺の心臓を・・魂迄も射貫く・・・・心地よい感覚

ずっと忘れていたはるかなる思い

人を本気で愛しいと思う心・・・慈しむ気持ち

シオネが死んでからずっと1000年以上封印してきた感情が全身から湧水の様に溢れ出す

 

囚われる!!!!

 

そう思った瞬間に俺は無意識に壬生屋を抱きしめて、引き寄せられる様にその桜色の唇に強引に口付けていた

「んっ・・・・」

どの位口付けていたのだろうか

そっと唇を離した瀬戸口を壬生屋は上気した顔で見つめた

「あの・・・・・わたしくをからかっていらっしゃるんですか?」

「馬鹿だな・・・そんな筈ないだろう?」

今迄と違う優しい声音。優しい紫苑の瞳が壬生屋を見つめる。

「だって・・・わたしくしの事を嫌いって・・・」

涙ぐむ壬生屋。

「それは・・・」

言葉に詰まる瀬戸口。

もう・・・隠せない・・・己の・・この溢れる気持ちを・・・瀬戸口は観念した。

「まいった・・・降参だ・・・俺はお前さんを欲している」

両手を上げて降参のポーズを取る瀬戸口。

「欲して???」

壬生屋には瀬戸口の言ってる意味が分からない。

「つまりだな・・・お前さんを欲しいと思っているって亊。」

「???」

嫌いなのに欲しい?更に分からなくなり首を傾げる壬生屋。

「あーもー壬生屋。俺はお前さんを抱きたいって言ってるの!」

瀬戸口の爆弾発言に顔を真っ赤に染める壬生屋。

「なっ・・・!!!不潔ですッ!!!」

「でも遅かれ早かれ俺はお前さんを抱くぞ?・・・駄目か?」

真剣な瞳で壬生屋を見つめる瀬戸口。

「そ・・そんな亊急に言われても・・・こっ・・心の準備が・・・」

壬生屋は視線を泳がせて狼狽える。

「じゃあ今準備してくれ。」

瀬戸口はそう言うと笑いながら壬生屋の腰を抱き寄せた。

「ふふふふ・・・・不潔ですッ!!!!」

瀬戸口は壬生屋の首筋に唇で口付けながら

「ん〜〜〜vvだって若宮のお手付き済みなんだろう?早く俺の手で消毒しなきゃな♪」

と、言うと。壬生屋は自分の今の立場を忘れてキョトンとして

「え・・・・?何の亊ですか?」

瀬戸口に問い掛ける。

無垢な蒼い瞳で自分を見つめる壬生屋の態度をふと疑問に思った瀬戸口は

「???お前さん若宮に抱かれたんだよな?」

と念を押すように聞くと、その瀬戸口の言葉に全身朱に染まり怒りに柳眉を吊上げる壬生屋。

「え?・・・なっ!!!なにを破廉恥な亊をっ!!若宮さんはそんな方ではありませんっ!」

その壬生屋の怒り具合でどうやら本心で言ってるらしいと悟り焦る瀬戸口。

「だって若宮がお前さんを抱いたって・・・」

しどろもどろに瀬戸口が答えると、壬生屋は、はぁーっと溜息をついて

「それは・・・泣いているわたくしを抱きしめて下さっただけです・・・・」

頭をハンマーで殴られた様な感覚に陥る瀬戸口。

「は?・・・抱かれたんじゃなかったのか?」

てっきり壬生屋の純潔は失われたと思っていたので少し安堵する現金な瀬戸口(笑)

「又!そんな!!不潔ですっ!!」

二人が押し問答で喧嘩になりかけたその時!!!

 

カコーン・・・

 

二人のいる場所から少し離れた階段付近から金属音がした。

「!?」

誰かが・・・いる!

確証はないが、いるとすれば恐らく・・・

瀬戸口は突然声を張り上げた。

「・・・・若ー宮いるんだろう?!!!出てこいよ!俺を騙しやがったな!!」

 

暫くして豪快に笑いながら屋上に上がって来た若宮。

「ハハハ。瀬戸口。お前は俺が尻を叩かないと行動に移さなかったじゃないか!」

予想通りの若宮の登場に頭を抱える瀬戸口。

「若宮・・・お前さんいつからいたんだ?」

「ん?壬生屋が告白した所からだが?」

全部聞かれていたのか・・・最悪だ・・・。

「若宮。お前なぁ・・・お前さんがあんな亊言わなければ俺はなぁ・・・」

「壬生屋への気持ちを認めなかったと言うのか?」

若宮が鋭い視線で瀬戸口を見る。

「それは・・・・」

返答にたじろぐ瀬戸口。

「瀬戸口!いい加減観念しろ!お前は壬生屋に惚れてる。否定しても態度で分かっていたぞ

まるで好きな女の子をいじめる悪ガキみたいだからな。」

「なっ!!!」

図星を指されて二の句が告げられず真っ赤な顔で口をパクパクさせている瀬戸口。

そんな瀬戸口を見て優しく微笑む若宮。

「俺も・・・壬生屋が好きだからな・・・壬生屋をよく見ていた・・・だから尚更分かる。

お前はいつも視線で壬生屋の姿を追っていた。自分で分からないのか?」

 

「え・・・?そうだったのですか?」

若宮の突然の告白に戸惑う壬生屋。若宮が自分の事を好いているとは欠片も思わなかったのだろう。

若宮の指摘に瀬戸口はただ困惑するばかりで・・・

「違う!俺は・・俺は・・・ただ・・・」

 

「壬生屋を他の男に取られてもいいのか?例えば俺や速水や滝川に・・・」

「駄目だ!壬生屋は・・・俺の・・・だ」

即答する瀬戸口。

若宮はフッと微笑むと瀬戸口の肩をポンと叩いた。

「ならしっかり捕まえておけよ?壬生屋を。・・・壬生屋も瀬戸口を離すな!絶対に。」

「はい。若宮さん・・・有り難うございます。」

涙ぐむ壬生屋。

「若宮・・お前そんなに壬生屋の亊が好きなら何故・・・俺達の仲を取り持とうとする?」

瀬戸口は何故若宮が自分たちに其処まで骨を砕いてくれるのか理由が分からなかった。

そんなに好きなら自分が壬生屋を愛せば良かろうに・・・。

「嗚呼気にするな。俺には・・・もう・・・壬生屋と一緒にいたくても・・時間がないんだ・・・それに惚れた女には幸せになって欲しい・・・」

「え???若宮・・さん?」

「若宮?・・・何を???時間って?」

とまどう瀬戸口と壬生屋。

「じゃあな。瀬戸口!壬生屋をもう二度と泣かせるなよ!それから壬生屋・・・幸せになれよ?」

若宮は壬生屋に極上に微笑むと

まるでこれが最後の様な別れの台詞を残して若宮は立ち去っていった・・・

 

 

 

 

 

若宮は愛する事に臆病な俺の背中を押してくれたんだ・・・

なのに・・・

それなのに・・・

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・若宮は死んだ。

 

 

 

幻獣と戦って戦死した訳でもない。寿命だ。

若宮の死を知ったのは・・・翌日だった

若宮は元々短命な年齢固定型クローンだったらしい・・・

死に顔はとても幸せそうな笑顔だったそうだ・・・原さんが最後を看取ったと言っていた。

来月からは新しいタイプの若宮が来るという話を委員長から聞いて皆悲しむ間もないその現実に

 

俺達は消耗品なのか?・・・とおののき怯えた。

 

若宮の死はクラスメイト全員悲しんでいたが、中でも仲の良かった者の中で壬生屋の落ち込みは酷く

「ううっ・・・若宮さん・・・」

瀬戸口は壬生屋の肩を抱いて崩れ落ちそうになる壬生屋を支える

「これからは・・・俺がいるから」

壬生屋は泣き濡れた瞳を上げて瀬戸口を見た。慈愛に満ちた優しい微笑み

「瀬戸口・・さん」

嗚咽の止まらない壬生屋の細い身体を強く・・・強く抱きしめる。

「俺がお前さんを守ってやる・・・もう・・お前さんを泣かしたりしないから・・・」

「はい・・っ・・うううっ・・・」

壬生屋は瀬戸口の胸で声を上げて泣いた

 

 

壬生屋を抱きしめながら瀬戸口は雲一つ無い青空を見上げる

『若宮・・・・約束は守るよ・・・お前の分迄壬生屋を生涯愛して・・・必ず壬生屋を幸せにするから・・・』

「ゴッドスピード・・・いい旅を・・・若宮。」

 

 

若宮が亡くなって数ケ月たった若宮の月命日の日に

校庭の隅の花壇にののみと若宮が植えた花が咲いた。

それは蒼い花弁を可憐につけた・・・勿忘草(わすれなぐさ)。

空色の・・・まるで壬生屋の蒼い瞳を連想させる様な蒼い綺麗な花。

勿忘草の花言葉は・・・「真実の愛」「私を忘れないで」

死んでも自分の事を忘れないで欲しいと願う若宮の心からのメッセージだったのかもしれない・・・・

 

end.

作品紹介・・・つか言い訳チック

ヘボ作8作目はヘタレ瀬戸口奮闘記(違)です。もしかして、表で此処まで壬生屋に冷たい瀬戸口を書くのは初めてかも(汗)うちの瀬戸口はコレが基本なんで。辛辣瀬戸口→実は壬生屋が好き?→最後はメロメロ。(笑)嗚呼っワンパターンも甚だしい(汗)でもいつっも瀬戸口が壬生屋にラブラブになっちまうのはどーしたもんだかな〜な私の作品(滝汗)所で今回若宮死なせてしまいました(汗)スイマセン。設定間違ってたら見なかった亊にして下さいませι

ちなみにタイトルは柴咲コウの曲「忽忘草」から。私的に瀬戸壬生ソングだと勝手に思い込んでいる曲でして。特にきみが手を差し伸べ私がそれを受けとめたら「アイ」というものに触れられることができましたとかすがりつく過去を 捨てることで本当の解放を知るとかあと少し時が経てばきみに逢えるきっと砂になろうともとか歌詞が全体的にものごっつ前世のシオネ絡めた瀬戸口の壬生屋への心情ぽくて好きなんですvvv切ない曲大好き〜〜〜vvvヘボ作ですが感想とか頂けるとメチャ嬉しいですのでどぞツッ込んでやって下さいませ。(笑)

勿忘草

学名:Myosotis scorpioides

別名:ミオソチス

花期:春〜夏4-6月

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